GX

□夢の続きを
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 十代と俺が共に暮らし始めて数か月たった。そう、あの運命の日を乗り越えて十代は今でも俺の隣にいる。
 俺は留学期間終了と共に母国へと帰り、十代と共に生活するために日本の大学を受けた。日本の文化は興味深く、とても面白い。特に妖怪や神社を始めとする文化を詳しく知りたいと思った俺は十代と出会った街の、文化財学科がある大学に進学した。ピカピカの一年生ってわけだ。

 座敷わらしとして一人前になった十代はすっかり身長が伸びて、見た目は15歳くらいの少年になっている。年齢と身長が漸く一致した、と十代は笑っていた。これから20歳になるまでは人間と同じスピードで成長するそうだ。

 覇王は姑よろしく週に4日は入り浸っている。本家は大丈夫なのか、と十代が聞くと、それはそれは優しい笑顔で「大丈夫だ」と答えていた。しかしその後「アレがお前と衣食を共にするなど腹立たしい」と恨みがましく呟いていたのを俺は知っている。

 前置きが長くなったが、今日は十代の誕生日である。大切な人だからこそ、喜んでもらいたい。その気持ちが強すぎて、何を渡せば良いのか全く思い付かないのだから本末転倒も良いところだ。因みに十代は朝から本家に戻っている。覇王に呼び戻されたらしい。だからこうして当日の今日悩んでいられるわけだが。

 取り敢えず、夕食は凝ったものを作ろうと朝から買い出しに行き準備をしている。だが、肝心のプレゼントが決まらない。何かないのかとパソコンと睨みあう。

誕生日プレゼント、恋人

 検索ボックスに入れられた単語に相応しい物が結果として上がっているがどれもいまいちだ。
 指輪なんて買えるほど蓄えはない、夜に遊園地は遠すぎて却下、高級ホテルでプロポーズは言わずもがな。

「発狂しそうだ」

 ディスプレイに反射された自分は険しい顔をしていた。ここは始めに戻り、俺が十代に対して持っているイメージを思い浮かべることにする。

暖かい、和、楽しい、赤、蝶、夏、儚い、明るい、愛おしい

 日本の夏と言えば夏祭り。そういやこの間から町中に祭りの告知ポスターが貼ってあったな……。
 検索をかけると、ちょうど祭りの期間中だった。どうやら祭りは3日間に分けて行われるらしい。で、今日が最終日で花火大会の日。どこか穴場スポットは無いのかと探す。打ち上げ場所は海。船から上げるそうだ。地図によるとその側には山があるらしい。その山頂からは綺麗に見えるようだ。
 ただ、問題が2つある。1つは俺が方向音痴だから無事に辿り着ける可能性が低いということ。2つ、そこは地元民なら誰でも知っている場所で、穴場と言うには程遠く、毎年かなりの人数が見に来ていると言うこと。出来たら静かに二人きりで眺めたい。地図をじっと見つめて場所を探す。
 
 ……穴場なんて、そうそうみつかるもんじゃない。打ち上げ場所は海、観覧場所は船着き場周辺でビルもある。穴場は穴場じゃない。その時閃いた。早速地図を印刷して印をつけてそこへ向かうことにした。

道すがら、雑貨屋やゲームショップ、服屋などを冷やかしに入る。いや、決してそういうつもりだったわけではないが、結果そうなってしまうのは仕方がないだろう。
 
 穴場スポットとして俺が選んだ場所は打ち上げ場所の対岸だ。そこならアクセスもちょっと面倒だから、そうそう人は来ないだろうと踏んで下見に来た。

「潮風が気持ちいいな」

 大きく伸びをして肺一杯に海風を取り入れる。気持ちがすっと落ち着くようで俺は海が好きだ。
 周囲をくるりと見渡す。
 障害物はどのくらいあるのか、無事に十代をエスコート出来るのかなどを考慮した上でここにすることに決めた。





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