GX
□黒兎はアリスを待ってる
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家に連れ帰ったのはいいものの、どうしていいのか分からない。
取りあえず引き出しからタオルを数枚取り出して簡易ベッドを作り、その上に寝かせた。滅多に使われることのない勉強机の上にいるそいつをじっと眺める。
「今更だけど、こいつ、人間なのか?」
まさか妖精? いやいやこんな真っ黒な奴が妖精なんてファンタジーでファンシーで夢あふれる素敵な生き物な訳ない。
どっちかっていうと、
「悪役、だよな」
刺々した鎧と言い真っ黒さと言い、悪魔や悪役という言葉がぴったりだ。
そう! 昔見ていた特撮番組とかに出ていた悪役! 力でもって世界を統一しようとしていたり、地球を征服しようとしていたり、そんな感じの!
昔は良くオリジナルヒーローを考えては絵を描いていたな。白いヒーローとかモグラみたいなのとかイルカみたいなのとか!! 押入れでも漁ればまだその絵が残ってるんじゃねぇの? 後で探してみるか。
そうだ、そうしようとウキウキとテンションが上がった途端、真っ黒いやつが小さく唸って体を起こした。
「ここは……」
きょろきょろと見渡してぼそりと呟いた。想像していたより低い声。やっぱり、妖精なんて可愛らしいのもじゃなさそうだ。とりあえず、気になってたことを聞いてみる。
「おっ! 起きたのか! なぁ、お前誰なんだ? なんで空から落ちてきたんだ? てか人間だよな? そんな重そうな鎧着ててしんどくないのか? 暑くないのか?」
なぁなぁ、と疑問をぶつけながら手を伸ばすと、勢いよく叩かれた。地味に痛い。
「煩い」
手の甲を擦りながら、小さく「なんだよこいつ」と言うと耳ざとくそいつが反応した。今度は額に激痛が走る。
「ってぇぇ!」
机に凭れて痛みが去るのを待つ。ひたすら唸っていると、そいつは軽く鼻で笑いやがっていた。
やっと痛みが去り、ぶつけられた物の正体を見て驚愕する。
「おまっ! 兜はさすがに駄目だろう!!」
「ふん」
オレの抗議はたった一言。いや言葉ですらないものに一蹴された。
てか、んん? この顔、この髪。
「オレがもう一人いる!?」
ちっこいオレは大げさにため息をついて「これが俺と同じ存在とは……」とつぶやいていた。意味が分からない。
同じ存在って、なんだ? こんな淡々と話して威圧感があって冗談が通じなさそうなのがオレ? 理解できない。
「我が名は十代。いや、覇王」
「はおう?」
なんでわざわざ言い直したんだ? まぁ、単にオレも十代でややこしいからか。一人自己完結して頷く。
「俺はもう一人のお前。別世界のお前だ」
オレの頭はオーバーヒートしそうだ。なんだそれ、別世界って。どこのアニメだよ。
でも、とりあえず、なんか。
「すげぇぇぇ!」
の一言に尽きる。ばかみたいな話だけど、オレは今でもヒーローはいるって信じてる。
世界はこんなに広いんだから、一人くらい本物のヒーローがいてもおかしくないだろう?
今までそう信じてきた。そして、とうとうそれと似た存在の、非日常の塊が目の前にいる。これでテンションが上がらずにしてどうする!
「煩い」
ひたすら感動してたら今度は剣が投げられた。
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覇王様と十代の関係は追々明かしていきます。
この十代、冷めてる所と熱い所があってよくわかんないぜ……。
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