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□あの日の最終電車
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「以上をもちまして、平成〇〇年度、〇〇県立〇〇高等学校卒業証書授与式を終了します。一同、礼」


桜があと1ヶ月もすれば満開を迎えるだろう春間近の3月、俺は3年間通い慣れた高校を卒業した。教室では友との別れを惜しむ声や涙をとめどなく流す者、先生や友人と記念の写真を撮る者など各々が思い思いに最後の時を過ごしていた。



ガタンゴトン



その時間も過ぎ去り、今俺は電車に揺られている。隣にはヨハン。彼とは3年間ずっと同じクラスだった。驚くことに出身中学も同じだが、生憎クラスは一緒になったことは無く、共通の友達を挟んで数回しか話したことが無かった。それが今や親友なのだから人生何が起こるか分からない。


そんなコイツとこの電車に乗るのも、もう最後。流れ行く景色をぼうっと眺めながら感慨に更ける。思い返せば、高校生活の3年間は長いようで短かった。正直まだあと1年あっても良い、そう思うほどに。

大切な仲間も出来た。苦しいことも辛いこともたくさんあった。でも、それでも楽しかったことの方が格段に多い。皆で囲んだ弁当、廊下を走り回った休み時間、とりとめの無い些細な会話、詰まらない授業中の友達との会話や放課後の寄り道。そんな些細な、ありきたりな日常の風景がとても大事で、大切な思い出たちだ。

ヨハンも同じことを考えているのか、俺に一切話し掛けてこない。他の乗客のざわめきからここだけ切り離された空間のようだ。

急に電車が強く揺れた。キキキと甲高く耳障りな音が響く。


「……っとと、ごめんヨハン」


唐突に起こったそれに対応出来ず、ヨハンにもたれ掛かってしまった。


「いや、大丈夫だぜ」


さっと元の位置に少しだけ間隔を空けた。ここは二人掛けの席だ。横に寄ろうと壁があるのみ。

ひたすら、無言。考えを中断したためこの空気が息苦しい。声を掛けようとしたが、先にヨハンが口を開いた。


「とうとう卒業だな」
「お、おう」
「3年間早かったよな」
「そうだな」


他人の口から聞くと、しみじみとそう感じてしまう。終わってみると、全てが夢のようだ。


「俺な、十代に言いたかった事があるんだ」


視線をヨハンに合わせ、続きを促す。しかしなかなか続きを話さない。ひたすら口を開閉し、時折謎の呻き声を放つ。上を向いたり下を向いたりと大変だ。暫くその光景を眺めて楽しんでいたが、とうとう覚悟を決めたのかキッとこちらを向いた。


「俺は3年間十代の事が好きだったんだ」


は? 今ヨハンは何と仰いましたか?

瞼をひたすらに開けたり閉めたりして必死に現実を飲み込もうとする。頭は残念ながら半分フリーズ状態だ。万年現文2の読解力じゃ頭の整理が追い付かないのも仕方がない。


「も、もう1回お願いしても?」


少し顔をひきつらせながら笑い、人差し指を立ててもう一度と請う。


「俺はお前の事が好きだ」


何回でも言ってやるよ、と囁いた。とくんとくんと胸がうるさい。3年間、ヨハンが俺の事を想っててくれた? 夢ではなくて?

カタンカタンと電車が小さく揺れる。

横からクスクスと笑い声が聞こえてくる。


「十代、顔が……っ」


そんなに可笑しな顔をしているのだろうか。生憎だが鏡は持ち合わせていない。


「ポカンとしすぎだっ」


終いには大口を開けて笑いだした。周囲の乗客から大量の視線が刺さる。そんなに笑うこと無いだろう、と反論する前にひとつ深呼吸をして笑うことを止めた。


「はぁはぁ、苦しかった。あ、返事は別にしなくていいぜ」


ケジメを着けたかっただけだしな、と呟いた。本心からそう思っているのだろう。穏やかに、そして晴れやかに微笑んでいた。それに見惚れる反面、胸がズンと重くなる。


ガタンゴトン
ズキンズキン


何か言わなければ、と思い口を開くが空気ばかりがこぼれ落ちていく。早く早くと気ばかりが焦る。





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