GX
□愛育
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「十代、これプレゼント」
ほら、と渡されたのは中くらいの大きさの水色の袋。口を赤いリボンで可愛らしく閉じられている物だった。
「……別に俺誕生日じゃねぇぞ?」
「知ってるさ」
さらりと答えられた。しかも爽やかな笑顔つきだ。
「じゃあなんで……って、判った!! お前今日の月1エビフライ、俺の狙ってるだろ!?」
「ご名答ーぅ、って、そんな訳あるか! 何だよ、恋人が愛しい人に理由もなくプレゼントしちゃ駄目なのかよ?」
んん、と首を傾げる十代。どうやら信じられないようだ。取り敢えずプレゼントは受け取ってはいる。しかし訝しげにそれを光に当てて透かしてみたり、左右に振ってみたりしていた。
「ヨハンからなんか貰うときは何かしら含みがあるからなぁ」
前はさ、貰った物自体が罠だったり、プレゼントあげただろって言われてエビフライ取られたり、カードパックを幾つか奢らされたよなぁ、と呟いた。全くもって良い思い出が無いのだ。
本当に恋人同士なのか最近は怪しく感じてきている。しかし十代も十代で普段はヨハンに甘えきっているので少しの我が儘ならば、と割りと受け入れていた。しかしこの頃はそのようなことが無かったので安心しきっていたのだ。そんな己を少し恨んだ。
「今回は大丈夫だって。ほら開けてみろよ」
「お、おう…」
箱ではないので開けた瞬間にバネで何かが飛び出してくるということは無さそうだ。思わず固唾を飲み込む。覚悟を決め、そうろりとリボンに手をかける。しゅるんと布どうしが擦れる音がしてほどけた。
恐る恐る中を覗くと茶色い物が見える。手を伸ばしそれを袋から取り出した。
「は……? 俺の人、形?」
「しかも俺の手作りだ。すごいだろう?」
確かに凄い。前々から手先が器用だとは思ってはいたがまさかここまでとは…と思ったほどだ。とても可愛らしく綿の量も丁度よく触り心地がとても良い。十代が十代の人形を抱いている、というのは中々に滑稽ではあるが。
「でもな、実はまだ完成してないんだ」
「はぁ? なら渡すなよ」
眉間にシワを寄せ軽く睨んだ。それに怯えることなく続ける。
「最後の仕上げは十代にやってもらいたいんだ」
「俺ぇ!? 裁縫嫌いなんだけ…ど……っ!?」
その瞬間、人形と目があった。生きていないものと目があうというのは可笑しな表現だが実際にそうのだ。真っ黒な瞳がじぃっとこちらを見ている。視線を逸らすことが出来ない。
ならば人形をどうにかすればと思ったが体が地面に縫い付けられているように全く動かない。神経という神経が全て麻痺した感じだ。動かせるのは口くらいだが、それも辛うじてだ。
「……よは、ん…て……め」
その先の言葉は紡がれることはなく、意識は闇の中へとフェードアウト。
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