GX
□雨音ロジック
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ザーザー…
今日も雨振り。
最近はずっと雨続きで気が滅入ってしまう。どんよりとした空気に流されているのだろうか。ひとつ溜め息をつき大きく伸びをする。時刻はもうすぐ夕方。
辺りが闇に染まる頃、赤い傘を差し散歩に向かう。いや散歩、というよりは見廻りと言った方が近いだろう。つい先日もミスターTと名乗る奴が襲撃を仕掛けて来たのだ。油断は出来ない。
ぶらぶらと暗い暗い森の中を歩く。昔の俺なら「肝試しみてぇ!ワクワクするぜ!!」と馬鹿みたいにはしゃいでいただろうな、今の俺には出来ないが、とぼんやり考えていた。
すると何処からか声が聞こえてきた。反響していて出所が掴めない。目を閉じ耳をよく澄ましてみる。初めはぼんやりとしたものだったが、段々とはっきりとしたものになっていった。
「いつまでお前は逃げるんだ?」
その声がしたと同時にゆらゆらとひとつの形が現れた。
「お前は誰だ!?」
デュエルディスクを展開し何時でも迎撃できる体勢をとる。
ゆらゆらゆらゆら
はっきりと姿を見せ、彼の瞳に映ったのは。
「…俺!?」
そう、声の主は遊城十代その人だった。
「いつまでお前は逃げるんだ?」
「どういうことだ、俺は逃げてなど、「嘘だッ!」」
声帯を震わせ有らん限りの声を出す。
「お前は逃げてる、みんなから」
「ッ!!」
確かに異世界の一件以降俺は皆を避けてる。もう仲間を危ない目に合わせたくないから、自分が引き寄せたことに巻き込まれてほしくないから。
ゆらゆらゆらゆら
気付けば2つの姿が見えた。
「仲間を巻き込みたくないからだと?……ふっ、欺瞞だな。お前はユベルと融合した為にヒトの生から逸脱した存在となった、半精霊の奇妙な生き物だ。だから怖いのだろう?」
「「仲間に拒否されることが」」
2つの声が重なった。雨音がやけに耳につく。
「違うッ!!俺は皆を、」
「巻き込みたくないと言うのはあながち間違ってはいないだろう」
「でもお前は、それを理由にして逃げてるんだよ。皆から、自分から」
何も言い返せない。何故ならそれは事実だからだ。守るため、と正義のヒーローの振りをして本当は誰よりも逃げている。
そう言うことで言い訳は美化されめでたく俺は独りきり。嗚呼楽だよ、独りは楽だ。誰のことも気にかけなくていい。失うものは何もない。自分のやりたいように動ける。誰にも迷惑はかからない。良いことだらけじゃないか!
「本当にお前は“独り”なのか?」
「違うよな?本当は分かってるよな、違うって」
眉を下げ今にも泣きそうな声で喋る昔の俺と、相変わらず威厳を感じられる態度の覇王。余りにも対称的過ぎて本当に自分なのかと疑うほど。覇王は続ける。
「たまに外を出歩けば、以前と変わらぬ態度で接してくれているではないのか?確かに壁はあるかもしれぬがお前が先に壁を作ったのだぞ」
「今だってほら、周りを見てみろよ」
ガサリと物音がしたかと思うと、そこにはかつての仲間達がいた。
「十代、その…」
おずおずと木陰から出てくる明日香。
「お前が最近また変なのと戦っていると聞いてな」
相変わらずふんぞり返っている万丈目。
「ひとりじゃ大変だろうからって!」
「加勢するザウルス!」
頼もしい、力強い言葉をくれる翔と剣山。
「黙ってひとりで抱え込まないで、キミは独りじゃないんだよ」
そう言って頭を撫でる雪吹さん。じわりと涙が浮かんできた。
嗚呼本当だな、覇王、昔の俺。俺にはまだ仲間がいる。勝手に避けても心配してくれる人がいた。
分かってた、独りじゃないことくらい。拒否もされないし恐怖もされない、ただただ受け止めてくれる。笑顔で。
人間誰しも“ひとり”だけれども、決して“独り”じゃない
空を見ると星が煌めいていた。
本当は初めから雨なんて降ってなかった
全部全部、俺の幻覚だったんだ
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