短編集

□ヌーヴォーに八つ当たり。
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…吐き気がする。

あまりの悲しみに何も食べれない。
食べれないし、一方、飲まずにはいられない。

さらっ、と。

グラスのヌーヴォーを喉に流し込み、その淡泊な初々しさを胃に閉じ込めれば。

「…もうやめろよ?」
「うるさいわよ、シカマル」

眉を寄せる彼にぴしゃりと返し、私はシカマルをぎろりと睨んだ。
すると肩を竦める彼。
それから彼は面倒臭そうに、空になっていた自分のグラスにワインを注いだ。

「私にも注ぎなさいよ?」
「言うことが聞けねぇなら、自分でどーぞ」
「フン、どこの何様よ!?」
「はぁ!?」

つん、と顎をそらしながら。
私はボトルを取り、自分のグラスに中身を注いだ。
横目で見やる透明な硝子の中に、とくとくと赤い液体が溜まる。
その綺麗さに又、泣けてきた。

「もう嫌…」

じわっ。

涙が目に湧き、溜まり、溢れて零れ出す。
いつになったら枯れるのか、流しても流しても止まらない塩辛い体液に溺れそう。

私はアリス?

自分の涙の海に呑まれ…
ドザエモンになりたい。
アリスなんて可愛いものにはなれなくていい。

「ねぇ、どうして消えられないのかしら?もういや、自分が嫌、嫌で嫌で殺っちゃいたいのに、なんで出来ないんだろう…」
「まだ寿命じゃねーんだろ」
「何よ、それ!?もっとちゃんと慰めなさいよ!!」
「へぇ。慰めて欲しかったのかよ?」
「……」

シカマルなんて大嫌い!!!


ぐいっ。


唇に冷たい縁をつけ、天井を仰げば、再び空になるワイングラス。

いくら飲んでも物足りない。
こんな青二才に、なんで世間はフィーバーするのかしら。
まるで水じゃない。

とうとうボトルから、私は彼女を喉に流し始めた。
せめてちゃんと酔わせてよ?
私の思考を止めて。
私を消して。
せめて今夜だけ。


「…ったく、世話の焼けるヤツ」


するとようやく、前に座るシカマルが。


『…オレが…#*@$@*#*@…』


ぼんやりとぼやけ、声がどこかに溶けて行った。


さ、堕ちよ。


やっと訪れた意識を手放す瞬間に。


『吐き気がする』


どこかの馬鹿な女が呟き、その台詞と共に私は夜に消えた。
 

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