彼方戦記U
□星の夜
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「……二航戦は明日の演習から外された」
「そうなの? 残念だなぁ。どうして?」
「途中で割り込むな。二航戦と五航戦は米国との共同演習に参加する。向こうからの指定だそうだ」
話を最後まで聞かない飛龍に、呆れた表情の蒼龍が言う。
それでも米国、という言葉の中に棘のようなものが感じられた。
彼の米国嫌いは相変わらず健在らしい。
「ふぅん、指定ねぇ……。向こうは何処が参加するんだっけ」
何故、指定されたのだろう。そもそもそんな事があっていいのだろうか。
二航戦と五航戦を指定した理由もよくわからない。
「確実なのは第十六任務部隊と第三十八任務部隊だ」
考えている事がわからない。
いくらこちらでは実戦経験があるといっても、この世界の五航戦はまだ未熟と呼べる技量しか無い……はずである。いや、そういう事にしてある。
第十六任務部隊はアルメリカの誇る精鋭、と呼ばれてもおかしくない。第三十八任務部隊もそうだった。
それが何故一航戦でなく五航戦を指名してきたのだろう。
そういえばあの時俺達を殺ったのはあいつらだったっけな、と飛龍の頭にぼんやりと浮かぶ。
敗因は様々で、しかし万全で勝てたのかもわからない。
よく『五航戦がいたらどうだったのか』と聞かれるが、そんなものはわからない。
四人が万全だったとして、勝てるかわからない。
いや、たしかにシミュレーションでは勝てた海戦だったのだろうけど。
蒼龍がどうした、といった表情で飛龍を見る。
飛龍は何でもないとはぐらかす。
彼はあの時三人の中で一番初めにやられたらしい。
例えようの無い思いだっただろう。
それを考えると、軽く話していいようには思えなかった。
「……」
考える事は難しく、一向に解決される気配は無い。
一つの疑問を追及したとして、さらに二つ三つと疑問は増えていく。
例えば昔の事。歴史の事。世界の事。
突然訪れた世界は、数年の経過をへても謎を多く持っている。
おそらく考えるだけ時間の無駄だ。
そしてあまりに学生くさい。
確かに艦齢は若いが、しかし人間の年齢とは大分違い、例えばワシントン軍縮条約で定められた時は艦齢十六で廃艦にする事ができた。
廃艦となれば、つまり、その先には死が待っている。