彼方戦記U


□桜の国の誕生日
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「……そのことですが、日桜様。今年は」

関東軍が言い訳もとい説明を開始するが、日桜の笑顔が向いて言葉に詰まる。
例年通りに、など言おうものなら、間違いなく災害に見舞われる。

「今年は、なんじゃ? ……おお、分かったぞ。今年は違った祭りをするのじゃな。瑞花が張り切るのも納得じゃ」

その張り切りはむしろ妨害の意図が強いだろう。名居神が珍しく大人しいが、代わりに瑞花神が好きにやっているのだろうか。
未だ降り続く雪のせいで、準備もろくに進まない。一切の準備がされていない光景も、日桜のその推測を助けたのだろう。

「当てて見せよう、内緒にしても我にはわかる。……わかったぞ、雪合戦じゃな!」

二度目の想定外が両軍を襲った。
普段は感情が顔に出ない、ほぼ無表情のみを見せる二人だが、今はかなりわかりやすく「何を言っているんだ」と顔に書いてある。それが並んでいるのだから、滅多に見られない、否、まずありえない光景だろう。
しかしそれを気にもとめない、見てすらもいない桜神は、雪合戦だともう確定したとばかりにはしゃいでいる。
どういうわけか子供の遊びを好む神だ。これだけ降り積もればたまらない。雪で遊びたかったのだろう。実際、雪だるまを三つほどこしらえていたのだが。

「こう積もっては階段も危ないからの。無理にここまで上がる必要もない。よく考えたのう、流石ぬしらじゃ!」

準備の遅れは深刻ではある。この勘違いはもしかすると有効かもしれない。紀元節というそれからは相当に離れるが。
二度目の視線のみで行われた会話により、決定されたのは博打。

「……ええ、ですので日桜さまには特別審査をお願いしたく」
「むう、我は参加できんのか」
「日桜さまは雪遊びに詳しいですから、より的確な審判をしていただけるのではないかと」

日桜の表情が不満から満足へと変化する。
頼りにされたと感じればはりきるのがこの神だった。二人は密かに、安堵の息をつく。
だが即座に次の問題へと切り替える。異常事態の発生と変更を伝え、さらには雪合戦の正式なルールについて決議しなくてはならないのだ。なんともいえない内容に、想像しただけで力も抜ける。

「子供の遊びと侮るなかれ、じゃ。我が直々に特訓してやるぞ」

はりきる日桜に手を引かれ、二人の最高司令官は雪の境内へと消えていった。
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