彼方戦記U


□輝く星のもと
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「賑やかだな、朝から」

レキシントンが苦笑するのも当然だろう、食堂で兄妹喧嘩が起きているのだから。しかも内容は実に下らない。フルーツを一つ奪い取ったとか取らないとか、そんな。
ヨークタウンの抗議はまたもや報われず、鮮やかに奪われたオレンジはホーネットの腹へとおさまる。

「仲良くていいじゃない」

サラトガの方は、まるで子供の喧嘩を見守るような口振りだ。実際、サラトガからしたら弟妹のようなものなのかもしれないが。
どのみちエンタープライズからしたら恥でしかない。こんなやりとりが、結構な頻度で起きるのだから頭痛の種だ。コーヒーを飲みながら、あれは他人だと言わんばかりに新聞に目を落とす。

「何か面白い話題はあったかしら、ビッグE?」
「特にない」

最近は特に事件もなく、平和に時が流れている。だから何も目新しいものはない。悪いことではない。むしろ待ち望んでいたものだ。
皆がいる平和な世界。有り得なかった筈の世界。初めは戸惑いもしたが、存外、慣れていくものだった。無論ここまで到達するのに紆余曲折あったけれども。

「ねえ、スーちゃんにお説教してよシスター・サラ」

ヨークタウンが不満げにサラトガに寄ってくる。

「僕のオレンジ食べたのに悪いことしたっていう意識に欠けてるんだ」
「盗られる方が悪いんだぜ、オールド・ヨーキィ。力こそ正義……イッテェ!」

ホーネットは微塵も反省せずに笑っていたが、突然脛を襲った痛みに踞る。
原因はワスプの蹴りだ。ホーネットと同様、獰猛な昆虫の名を持つ無口な小型空母は、通りすがりに鋭い一撃を与えて反省を促す。

「クソ痛ぇ……」
「ワスプありがとう! スーちゃんも反省するんだね」

私の仕事は済んだとばかりに食堂を後にするワスプの背に礼を述べたヨークタウンは、一切自分の力を発揮していないにも関わらずにお説教のように言葉を続けた。

「ざっけんなこの野郎!」

挑発と受け取ったホーネットが立ち上がり、ヨークタウンに突進。幼い長兄は、いやー!なんて悲鳴を上げながら食堂を出て、雀蜂も後を追った。漸く訪れる静寂。

「エンタープライズ、お前相変わらず大変なんだな」

入れ違いに入ってきたレンジャーが、日常と化したやりとりに苦笑する。主に大西洋で演習していた彼にとっては久しぶりの光景だろうが、変わっていないことに安心と同時に複雑そうである。実際、もう少し落ち着いてもおかしくはないだろう。
それだけの時間が過ぎたのだ。けれども飽きずに、ワイワイと賑やかな毎日が流れている。
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