記憶の彼方戦記

□兵戈、絶え間無し
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「……ああ、忘れているのではないかと思うから言っておくが、この後第三戦隊と第六戦隊が来ることになっている。いつ来るのか、何をしに来るのかはお前しか知らんがな」

ふと、蒼龍が思い出したように言った。
赤城がやばい、と焦ったのは心の内のみのつもりであったが、しかし誰の目にも明らかでしかなかった。

「それはもっと早く言ってよ!」

先ほど蒼龍が赤城に投下し、結果としてそこらじゅうに散らかった書類やら何やらを必死で片付けはじめる。
その様子を見て察するに、どうやら本気で忘れていたらしい。
こんな状態なのだからすでに今更なようでもあったが、一応、一航艦の威厳に関わる。蒼龍と加賀はため息をついて、その手伝いにまわった。


「どうした、赤城。息が荒いぜ?」

からかうように言ったのは、第三戦隊の榛名である。何とか片付いたその数分後にやってきたのだが、赤城の隠したつもりの荒い息は一瞬にして見抜かれたらしい。

「気のせいだよ、うん」

「まあいいさ、別にたいしたことでもねぇし」

な、と榛名は金剛達を見た。まあな、と金剛が返答する。

第三戦隊、第六戦隊の来たのは、演習についての話の為であった。人間達に任せっきりでもいいといえばいいのであるが、それでは何か悲しいものがあるし、彼等自身には少々物足りない。
ちなみに第六戦隊からは、代表として青葉が来ている。

「ところで、何で比叡がいるの? 確か、改装中で動けないんじゃ」

「確かにそうなんだけどね、改装って訓練もいるけど結構暇だからさ。演習には直接の参加は出来そうにないけど、霧島の横で観戦させてもらうよ」

こっちは動けるしね、と簡単に言う比叡に霧島が微かにため息をつく。

そっか。じゃ、早くまとめようか、と赤城は金剛と青葉に言った。



「あ、蒼龍。君の弟はあと数カ月で進水らしいね。これで日桜の正規空母も四隻、それなりの数になったもんだよ」

赤城達が話し合っている間に暇を持て余していたのか、蒼龍と目のあったらしい比叡がいった。蒼龍はそうですね、と短く返した。

「そうですね、じゃなくてもっと喜んだら? 異母弟とはいえ兄弟じゃん。羨ましいよ、兄弟がいるって」

赤城が割り込んでくる。
自分にも兄弟が欲しいといった口調である。

「赤城。そちらの話に入るのも構わないが、これについては……」

「今ので大丈夫だって。許可はおりてるし、第一戦隊がなんかやってるならこっちも大丈夫だよ」

笑って答える赤城だが、しかし相変わらず大先輩に対してもこの口調を崩さないのは、まったく奇妙な光景である。確かに赤城が一航艦旗艦であることを考えれば若干上であるのかもしれないが、人間達が見れば驚くだろう。

金剛は明治の生まれである。赤城達と比べ、優に十は年上なのだ。同じ階級であっても、これではいけないだろう。
……最も、その一人である榛名さえ赤城と似たようなものであったから、この状態がもはや当たり前になっているのかもしれないが。
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