記憶の彼方戦記

□兵戈、絶え間無し
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蒼龍はいらついたように赤城を睨んだが、加賀を振り払ってまで攻撃しようとは思わなかったようであった。

彼が此処までいらつきをあらわしているのは、おそらく開戦を止める術を持たない歯痒さの為であろう。ゆえに、沸点が大分下がっている。
蒼龍も開戦反対派である。
ただ、赤城と違い人間達の決定にただ堪える事に堪えきれずにいるのだ。
例え見た目に大差なくとも、彼は赤城に比べて大分若い。それゆえにおさえきれないものがあるのだろう。

赤城も昔はそうであった。蒼龍の場合、その時期に国家の興廃に関わるという、赤城の時とは比べものにならない程に重大な事が目の前にあるのだ。それに彼は何より国を第一と考えている。その愛国心と呼ぶべきなのか国を思う心はもはや宗教の域に達しており、盲信的とも狂信的ともとれるほどである。
そして彼の場合、奇跡的にそれでいてなお冷静に状況を分析できるだけの能力はあった。

開戦を回避させたいにも関わらず、国が開戦に靡いていることがわかる今、何も出来ない事が無力で仕方ないのだろう。
しかもバウテと協定を結んでしまったのである。海軍は猛反対したのだが、それでも止められなかった。

もしアルメスを牽制する事が出来たのならよかったのだが、結果は単にアルメスの心象を悪くするだけに終わっている。

「……そういえばさ、弟はどう?」

無理矢理にでも空気を変えるべく、赤城が聞いた。
蒼龍には現在建造中の弟がいる。といっても、純粋のでなく異母兄弟であったが。
もうそろそろ建造も終わるはずだ。
あまりに唐突な質問に一瞬理解できなかったらしい蒼龍であったが、ああ、と呟き、それから妙に嫌な顔をした。

「……あいつか」

蒼龍はため息をつく。

「あんな阿呆面、見たくもないがな」

そういう蒼龍の口調には、本気の侮蔑と何と言うのだろうか、親族にたいする親しみが含まれているのが感じられた。
途端、思わず赤城は吹き出す。蒼龍は理解出来ないといった表情だ。
蒼龍によると弟――飛龍は当然のことながら最新鋭として恥じぬ能力はありそうとのことである。問題として強いてあげるなら「左利き」ということがあり、改装後の赤城の教訓を取り入れるには幾分成長し過ぎていた。

「そっかそっか。入隊が楽しみだなぁ」

ね、と加賀に笑いかけた。自分に振られると思っていなかったらしい加賀は、やや驚いた様子であやふやに、ああ、と答えた。

赤城も加賀も兄弟はいない。が、互いにどこか兄弟を探していると思われる節があり、少なくとも、自分には実は兄弟がいたのではないかと思う事が赤城にはあった。
ゆえか、たとえほとんど他人のような存在といえども、兄弟を持つ事の出来た蒼龍、飛龍が羨ましく思えた。

 
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