記憶の彼方戦記

□兵戈、絶え間無し
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日桜の国連脱退から、事態は悪化の一途を辿っていた。
そのせいなのか、あるいはそうなったがゆえなのか、相変わらず暴走は止まらずに、むしろ勢いを増していく。
空は晴れていたとしても気分はどんよりと曇り、その心に太陽が顔を出すのはしばらく先になりそうだった。

日桜の傀儡国家として誕生した満州は帝政を開始していたが、勿論承認した国はいまだほとんど無い。
これからも承認はされないだろうと思った。

ソビェートが承認したのには驚いたが、おそらく無駄な所で敵を作りたくはないという事なのであろう。あの国と欧州の仲がよくないことはわかっている。
そんな状況下で他にも敵を増やすのは得策ではない。だから、もし欧州との仲が改善されれば態度は変わってくるはずだ。わざわざ日桜に配慮する必要は全くなく、むしろ満州は傀儡国家だと主張するだろう。

あるいは、例の協定の事が頭を過ぎる。
一体何故本当に締結してしまったのだ。理解に苦しむ。
より一層どん底まで気分が落ちるのを避けようと、協定については考えるのを意図してやめていた。

考えをやめるなとは前から言われているし、やめたくはない。
しかし鬱な気分になるのも嫌だった。バウテという国が嫌いなわけではない。だが、日桜を米国と戦争状態にしたくない気持ちが強かった。……無謀としか思えないからである。
いや、確かに短期間ならば充分に戦えるだろう。それだけの実力は備えているし、自信はあった。

問題は短期間で決着をつけられなかった場合であるし、赤城は長期戦になるだろうと予想していた。
日桜とアルメスの国力の差を考えれば、楽観視する事などできるはずもない。持久戦になれば、先に力尽きるのはこちら側だ。

状況はどう考えてもよろしくない。今やるべきは開戦の回避のはずだ。しかし未だに、確かに日桜は開戦に向かっている。
一体、何を考えているのだろうか。
持ち前の前向きさも、あまりの事にすっかり萎んでしまっていた。

あまりに考えに集中し過ぎていたせいか、自分の名前を呼ぶ声がするのを気にしていなかった。
不意に、どさっ、と分厚い紙の束が腹に落下してくる。
ぐは、と思わず声をあげた。

衝撃により散らばった紙のうち、頭の上の一枚を見ると、“演習”の文字が目に入る。ほぼ同時に犯人の顔も確認できた。きっちりと軍服を着た青年が、何とも冷ややかな視線で彼を見下ろしている。

「演習の予定だ。普段馬鹿みたいに騒いでいるくせに、ここ最近再び落ち込み過ぎではないのか? 加賀に聞いたが、私の生まれる前はそれ以上に子供のように明るくあったというではないか」

青年……蒼龍はほぼ一息に言い切ったが、赤城にそれを聞く気は全くになかった。

「……なんで、紙に?」

彼の言葉を完全に無視して疑問をぶつける。普通はこんな事はしない。理由は人間達の話を聞いていればわかるからと言っていたが、面倒だというのが本当のところであった。

「お前が紙に書けと言ったからだろうが、この馬鹿」

旗艦に対してこのような暴言をさらりと、何の躊躇もなく言い放てるとは由々しき事態であり、一体どのような軍隊だと思うのだが、しかし彼らにとっては普通の事であった。

そもそも誰かの部隊内での方針であったのがいつの間にか全体に浸透していた。
ちなみにこれは日桜海軍に限らない。発祥は確か、イギリシアだったような気がするのだが。

今更、明日は演習があったなと思い出した。そして確かに自分は頼んだ。一々降りる必要がなくなるからだ。

すっかり忘れていたと内心思いはしたが、馬鹿と言われて不満げな顔をした赤城に、普段からまとも仕事をしないのが悪い、と加賀が遠くで呟いた。

「……第一、貴様本当に一航艦の旗艦か? もし旗艦がそのような状態でいいとでも思っているなら、すぐさま加賀に旗艦の座を譲れ。演習の予定を忘れるなど前代未聞だ」

蒼龍の言葉は続いている。が、やはり赤城は聞き流す。
今の自分が駄目だとはわかっている。しかし、出来るならこれ以上皆を戦わせたくはない。だから演習も忘れたい。戦いを知らずに終焉を迎えたい。

戦わないで終わる方法、最善の方法はなんであろうと、もうすでに引き返せないのかもしれないが。
ため息が出る。

「この、いい加減にしろ!」

まともに対応しない事にしびれをきらしたのか、蒼龍が赤城に殴り掛かる。赤城がそれをかわせたのには、加賀が蒼龍を抑えた事も大きいだろう。
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