記憶の彼方戦記

□始まりのはじまり
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だが、結果それは外れなかった。

日桜帝国は国際連盟を脱退した。

満州国を認めない国連に反発しての行動である。
それはつまり、国際社会から徹底的に孤立したということに外ならない。いよいよ本当に世界を敵に回したのだ。

間違ったって喜べるような状況ではないが、国民は万歳して喜んでいた。
いや、喜んでいるのではない、勢いに呑まれているのだ。そうであると信じたかった。
勢いというものは時に信じがたい力を発揮し、空気を掻き回し世論を空転させる。

とにかく、これ以上悪化させてはいけないのは事実だ。
アルメスとの関係の悪さは日露戦争後あたりからだんだんとはっきりしてきているような気がする。
もっとも、その当時はまだ生まれていないから、三笠たちの話を聞いて赤城が勝手に思っただけなのだが。

(何十億歩譲って)華月の問題は一時的に収まったといえ……孤立したのだから、かなりまずい状況となってしまったのである。

不安は頭から離れない。改善されるよりはむしろ悪化している。

「お前にしては珍しいな、考え事など」

不意に聞こえた声に跳ね起きると、その男はあきれたようにため息をついた。

「いつ見ても思うが、旗艦らしくないな、お前は。…ああ、まだ実戦の経験もないんだったか」

「五月蝿いなぁ。仕方ないの! 改装終わってた加賀と違って、上海事変のとき改装中だったんだからさ」

わかってるくせにずいぶんと失礼を言ってくれる、と赤城はむくれたように言った。

「で、何かあったの?」

話題をかえる為、赤城は疑問を彼にぶつけた。加賀が意味も無く赤城の元にくるとは考えにくい。
ああ、そうだったなと彼は言った。

「珍しくお前が考えていることと同じ内容だろう。お前も塘沽協定の締結は聞いただろ?」

「うん、大分前にね。一応あれで華月問題は片付いた事になるけど……日桜の孤立状態に変わりはないよ。一体どうする気なんだろ」

実際は華月も納得したわけじゃないし。
赤城は呟く。

「どうするも何もない。とりあえずはこれ以上悪化しなければそれでいい。陸軍が落ち着けば、あの国家は消えるだろうと私は思うが。それから何年か何事もなければ復帰は可能だろう」

むしろ、そうであって欲しいんだがな、と付け加える。

今では満州は日桜の生命線だといわれている。
あの地方からは日桜本土は射程範囲にばっちり入ってしまう。
ゆえに、あの地方をとられるわけにはいかない。それが理由である。

「そこまで満州って大切かな……?」

だがどうしてもわからない。やはりここに回帰してしまう。
無論射程範囲に入れられては困るが、生命線と呼ぶほどのものだろうか。

 
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