記憶の彼方戦記

□ネタメモ
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扶桑からの入電は、予感できていた。呉から柱島へと戻る途中聞いた音は、主砲のそれにしてはあまりにも重々しく。妙な胸騒ぎがしたのを、確かに覚えている。
戦闘準備に入ったと連絡が入れば、長門は全艦艇へ、緊急信を飛ばす。

潜水艦による攻撃が予測された。
対潜警戒のジグザグ航行をせざるを得ない。


いざ泊地へと着いてみれば酷い有り様。
濃霧に包まれた中、その靄の先に、妙に冷静な頭が、まだブイから離れてもいなかったらしく、海面から顔を出している艦尾が繋がっているのを確認した。

もはや形をとどめない、残骸、浮遊物と果てた姿。
唇を噛む。だが、そうしている暇などない。今この瞬間にも、陸奥を屠った潜水艦がいるかもしれないのだから。


扶桑が長門に悲痛な顔を向ける。何か声をかけようとしたのを、長門は命令で遮った。情報を集めて欲しい。扶桑は黙り込み、そして頷いた。

指揮に移れば、余計な事を考える暇などない。収容に、対潜警戒に、長門はひたすらに指揮をとる。混乱と殺気とに支配される艦艇たちの舵をとる。
人々の手助け。何か手がかりが見つかれば。

しかし集まる情報は、考えられていた潜水艦による雷撃を否定するようなものばかり。
雷撃だとしたら、いくら防御網が外されようと、航跡や水柱すら誰一人目撃していないということがあまりにも不可解。仮に目撃できなかったとしても、魚雷の衝突による音を捉えず、爆発音のみというのも疑問が残る。
潮がかつて爆雷を落としたという話も出たが、原因にはならないだろう。
三式弾の暴発か?という説も浮上する。これについては後の報告を待つしかない。

濃霧を言い訳に、暗い海面に膝を付いた。
陸奥が沈んだという事実が、静かに静かに、長門を侵食する。
流れてきた破片を手に取った。不思議と、心は痛くはないのだが。

この暗い水の中、この揺れる海の底に。
還るのは今じゃないでしょう、

「陸奥……」

名を口にしてみようとも、大事な親友の声は、きこえない。
その事実が、ずっしりと重く、のしかかった。
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