番外編

□極東の戦火
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一八九四年 七月十九日のことだ。
常備艦隊と西海艦隊により連合艦隊が編成され、政府には薩摩出身者で固められた、所謂薩摩閥が完成していた。
外交は開戦工作を怠らなかった。日桜の出した「第二次絶交書」に対して光緒帝が激怒している。


「四日前に兵員増派を発見しだい輸送船団と護衛艦隊の『破砕』を求められたと思うたら、今度は『清国若シ軍兵ヲ増派セハ中途ニ之ヲ阻遏スベ』し? 嫌やなぁ」

宣戦布告こそしていないが清に突き付けた最後通牒の返答は未だにない。あと一日でその期限も切れるのである。
その上でそんな指示が出されているのだから、いつ何が起ころうがおかしくはないだろう。そう吉野は言おうとしたのだが、言っただけなのか既に浪速の意識はそこにはなく、遠く水平線を見つめている。

「……浪速さん?」
「この出撃、何か嫌な予感がするんよ。初っ端から戦うのも何や嫌やけどなぁ。この戦争、陛下はあんまり乗り気やないんやろ?」
「……らしいですね」

確か橋立からの情報だっただろうか。
天皇は「朕の戦争に非ず」と漏らしたと聞いた。「これは伊藤と陸奥が始めた戦争である」ということを言っていたらしい。

「確かに不思議な感じはします」
「ま、実際戦いになれば燃える気はするけどなァ」

そう思わへん? と浪速は笑った。



それから二日後の午前四時半、先発隊である第一遊撃隊の三隻――吉野、浪速、秋津洲――はベーカー島付近へと到着した。

「あれ、八重山達がいないみたいですね」

周囲を見回し、吉野が呟く。
豊島沖で会合予定の八重山と武蔵の姿が見えないのである。
こっちも見当たらへんで、と浪速も言う。

「迎えに来るって言ってたんですけど……」
「……清にやられたって事はないだろうな」
「まさか、それはないでしょう。多分何らかの理由で予定が遅れているのに違いありません。捜しましょう!」

秋津洲の言葉を信じられない、といったようすで吉野はすぐさま否定した。
近くにいるはずだと八重山と武蔵の捜索を開始する。

だが五時、六時になっても二隻の姿は見当たらない。
一体何が起こったのかと不安を感じ始めた頃、秋津洲が何かを発見した。

「おい、吉野、浪速。牙山の方からだれか来てないか?」
「そうみたいやな、八重山達とちゃう?」

秋津洲の言う方向に二条の煙と艦影を確認した浪速が呟く。
が、吉野の緊迫した声に空気が張り詰めた。

「違います、あれは……あれは、清国の…済遠と広乙です!」
 
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