番外編

□極東の戦火
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静かに揺れる海の上、甲板で橋立はぼんやりと考えごとをしていた。

清との戦争は終わったのだ。
結果は――日桜の勝利である。

勝利。
華々しい戦果。ゆえにこの戦争での活躍を賛美されているが、いくつかの問題が残っていることも事実である。

三国干渉と呼ばれる露・独・仏による遼東半島の返還。それゆえに臥薪嘗胆をモットーとし、大国に必ずや仕返しをしようという風潮になったのも考え方によっては危険だと言えた。

彼ら単体ではまた別の問題、つまり戦利品として連れてこられた者達――とくに鎮遠――のこともある。

日清戦争において日桜の悩みの種であり、竣工以来定遠とともに清海軍の頂点に君臨していた彼は、清の敗北によってなにより嫌うこの日桜に戦利品として連れてこられた。
彼は当然激しく抵抗した。が、叶わぬ事がいよいよ明らかになると次に殺せと叫んだのである。

それそのものには特別抵抗があるわけではない。そもそもその行為に関しては特別な抵抗もないのである。そのように、彼らは生まれついている。
だが、殺したところで現在彼が死ぬことはない。いくら叫ぼうと、彼らは彼らの死ぬ事を許されない。

危険ということで鎮遠は隔離されたが、橋立は出来るなら彼を楽にしてやりたいと思っていた。
鎮遠からすれば、酷い拷問を受けているのと相違ないのだろう。母国に帰ることのできるその時まで、深い眠りの中にいることができればどれだけ幸福か。それが叶わないならば、死を与えて解放してやったほうが幸福なのは間違いない。

「仲間」である者が壊れていくのを見るのは気分のいい事ではないのだ。
それとも、兵器が感情を覚え、幸福などを考えることが間違いなのか?

戦時とあればまた別だが、すでに戦争は終わっている。
意味のない苦しみは必要ない。
それはいくら敵だろうが変わらない。
むしろ敬意が必要なのではないだろうか。

橋立は別段鎮遠が好きなわけではない。
だが、もし立場が逆であったなら。そう考えると、その苦しみを無視できるほど橋立は冷たくはなれなかった。


そもそも日清戦争はどんな戦いであったのだろうか。

何を原因とするかは一概に言うことはできない。
東学の乱の発生も一つであるだろうし、そうするなら天津条約、甲申事変も関係があるだろう。

甲申事変であの国が親日家から親清家になっていなければあるいはこうならなかったのかもしれない。

だが、それはあくまで“もしも”のことであり実際の出来事とは関係ない。

はっきりしているのは宣戦布告そのものは豊島沖海戦より後に行われ、そしてこの戦争が天皇の意思に反していた事である。

過去を振り返りながら、橋立は甲板に寝転がった。
 
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