彼方戦記U
□星の夜
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暗い青色の空に星が輝いている。
月もその影を海面におとし、夜独特の弱く冷たく、それでいて柔らかい光が辺りをぼんやりと照らし出している。
その夜空の下、飛龍は特に何をするでもなく、ただぼんやりと空を眺めていた。
色々な事がありすぎて、いまだに理解が追い付いていない気がする。
二度と見れないと思っていた空を当たり前のように見られる事や、会えないはずの仲間に普通に会う事が出来るという事実が、頭の中を余計に混乱させる。
素直に理解し、それに感謝すればいいのかもしれないが、どうもすっきりしない。
無理に明るく振る舞っていたのは何も飛龍だけではなかった。
例えば赤城や加古、鳥海、球磨。それ以外にも多いだろう。
普段から明るいが、混乱と不安の入り交じったような中で、その明るさはひどく不安定だ。
もしも全員が生き返ったというのなら、何か代価があるだろう。
しかしその代価が何であるか、何であったのか。全くわかっていない。無償であることが恐ろしい。
この世界は記憶にある世界とは似て非なる世界だ。
状態はある意味での下剋上にも似ている気がする。
でも「強さ」が違う。気がする。
前の世界での訓練生時代。
ずっと「戦争が起こる」と緊張していた。
一歩早く先を進んでいた蒼龍は、飛龍の想像よりも遥かに焦っていたのだろう。
猛訓練にさらに訓練を重ねていた。
世界が変わっても、兄が見ているものは変わらない。
目指すものも、願うことも。
月が雲に隠れた調度その時、不意に背後に気配を感じた。
振り返るよりも早く声がふってくる。
「此処にいたのか」
「あれ、もしかして探した?」
振り返り、そうならごめんねと笑いかける。
別にそうでもない、と彼は答えた。
「お前のいる場所は、ほぼ確定している」
「兄貴もだよ、俺にはすぐわかる」
冗談のように笑う。
蒼龍は一瞬苛立ちを覚えたらしかったが、いつもの事だと頭を振ってため息をついた。
月が雲の隙間から淡い光をおとしている。
だが、光は暗い海までは届かない。