彼方戦記U


□輝く星のもと
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輝く夜。実に明るい光が夜を照らしている。
否、もう時刻は朝。じきに太陽が東の空を燃やすだろう。
初めて見るわけではない。むしろ何度も観測している。だが、慣れない不思議な感覚だった。
穏やかで、暖かくなるような。安心するような。静かな海がまた、それを補完する。寄せる波の音や風の音がはっきりと聞こえるほどの静寂。ただ、それを少しだけ蝕む影を、エンタープライズは発見した。

「随分早起きだな」
「珍しいって言いたいの?」

近付き声をかければ、びくりと身体を跳ねさせたヨークタウンが、振り向くと同時に、それなら君は夜明けでも見に来たのかと尋ね返してきた。まあそんなところだと返答する。騒がしい兄だとあらためて思いつつ、煙草に火をつけた。漂う紫煙に、予想の通りに兄は素早く立ち上がる。

「ちょっとE君! 煙草は駄目って言ってるでしょ!」

涙目になりながら兄が行った抗議を完全に無視して、エンタープライズは空を見上げた。
朝焼けの少し前、幻想的な青色に染まる空は美しく。そんな空に立ち上る煙が消えていく。
彼の背後に近寄る気配と共に、その煙が一条、増えた。

「兄貴たちはひでえな、オレをおいていくなんてよ」

拗ねていう妹ホーネットは、やはりヨークタウンの抗議を完全に無視し、くわえ煙草のまま彼の隣に座った。そのまま空を見上げて、あーあ、と倒れ込む。

「こんな綺麗な空を隠してたなんて、悲しいぜ」

全然知らなかったとため息をつくが、どうにも嘘臭い。かなり規則的な早寝早起きをするヨークタウンに対して、ホーネットは就寝も起床もバラバラだった。夜明けまで平然と外にいる彼女だから、結果的に自分だけ置き去りになった形であることが不満なのだろう。
そんなことないよ、とヨークタウンがいつものように宥めた。煙草については諦めたのか、少し距離を置いているのみだ。

兄妹で揃うこと自体は珍しいわけでもない。
だがこの青色の下、こうして偶然揃ったのは特別なようにも感じられてくる。感傷的で柄でもないな、とエンタープライズは煙を吐いた。

同時、太陽が水平線から姿を現せば、突き刺すような光が彼らを照らす。
目映さに目を細め、輝く海を眺める。雲に覆われぬ限りはよく見掛ける光景。

本格的な朝がきた。また一日が始まる。
穏やかに騒がしく流れる一日。なんとなく、愉快なことになりそうだと、誰ともなく、予感する。
 
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