記憶の彼方戦記

□ネタメモ
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陸奥轟沈の話

霧の日だった。朝から酷い霧だった。小雨に打たれては
「いやになっちゃうなぁ」
そう陸奥は呟く。甲板に寝そべって空を見てみたりしたが、霧雨による濃霧がひたすらに重く彼を包んでいた。
「なにもかも嫌になる」
むしろ奥底に潜んでいたアンニュイな色々が表層化して、現実に顕在したようにも思えた。

普段は親友の長門が繋がれるはずの旗艦ブイに、今は陸奥が繋がれている。
親友は呉で修理や補給の最中だ。戻ってくるのは午後一時。まだまだかかる。
故郷なんだしゆっくり休んでくれてたらいいんだけどなぁ。そんなことを考える。すぐに無理をする友人だ。どうにも心配だった。
特に最近。焦燥に駆られて追い詰められ続けている。
それに、陸奥自身も、そうやって日常に笑ってないと辛かった。

「大和とか来てから俺らは更に旧式だからねぇ」

油断はすぐに言葉に出る。足手まといだと置いていかれて戦いに参加すらできなかったことを自嘲する。
霧に隠されている安心感が、珍しくこうした弱気な言動を許す要因となっていた。

「まー考えてもなぁ。いつか艦隊決戦あるなら俺と長門で意地見せてやりたいとこだよね」

もはや夢に等しい希望。航空機の時代となった今、覇権は空母たちにある。戦艦はもはや時代遅れ。それを考えれば、長らくビッグセブンだとちやほやされた自分たちは幸せだったのだろう。

「お、艦長もお帰りか。あー、じゃあそろそろ移動の準備しなきゃな」

扶桑艦長と同期だという彼の戻ってくるのを確認。起き上がり伸びをする。日常。飽きがくるほど、絶望するほど、戦力温存だの足手まといだの言われて泊地に押し込められる日常。

これが終わって幸せになれるならかつての栄光を捨ててもいいと。
できるならば、散っていった仲間たちともまた笑いあって馬鹿な話でもできればいいと、そんなことを考えて。
立ち上がりまあ夢だよねと笑ったところで。直感にも等しい一瞬の違和感。それを認識するのと同時に凄まじい痛みと爆風が。陸奥を容赦なく襲う。

「っ……?!」

想定外の出来事。魚雷でも受けたのかと思った。だが違う。内部からの衝撃。痛み、とかの次元ではないような気もする。

「冗談、でしょ」

追い詰められると笑うんだな、とか妙に暢気に思う。砲塔が高く宙に舞う。艦内を炎が走り抜ける。そして、ぱっきりと。身体が折れ、切断された

脳内に過去の記憶が次々に浮かぶ。

訓練も終わらないままに一人前だと主張され、ひやひやしたり、長門と共に旗艦として、ビッグセブンとして、皆に愛された懐かしい記憶。幸せな記憶。
走馬灯ってこんな風に見るものなのかと感心していれば、意識は急に現実へと帰る。

長い時間のようで一瞬。急速に陸奥は海中へと沈んでいく。
泣き別れとなってしまった身体の半分がちらりと視界に入り、これじゃ遊べないじゃないか、と現実から逃避した考えが過る。朦朧としているのかもはや痛みはなかった。ただただ、身体が重く意識も次第に薄れていく。

海底にぶつかる感覚。目を開けている筈なのに靄がかかってわからない。目を開けているのも困難になる。意識ももう無くなるだろう。

(まさかこんな最期になるなんて)

口角は上がったまま、陸奥らしい笑みを浮かべて。

(ごめんよ)

親友へ向けて声にならない言葉を泡とはいた。



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