番外編

□桜の国の誕生日の話
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その日、桜木神宮は朝から非常に忙しく、必然か偶然か、ともかく意図的なものであれ運悪く当番であった長門と関東軍は、隠しながらもあからさまに対立しながら、山積みの「仕事」を片付けていた。


この寒い時期、しかも珍しく大雪に見舞われたこの年。
何が行われるのかと尋ねたくなる有様だが、暦を見ればすぐにわかることであった。

二月十一日。言わずと知れた紀元節である。

二度言うが、ここは桜木神宮。
そう。主神を祭る神社。

紀元節にはそれを祝う祭が催されるのが通例だ。全ての神社の頂点にあるこの神宮も例外ではない。いや、国の神を祭る神社なのだから、当然といって差し支えないだろう。

「貴様まだいたのか、仕事が片付かん」
「珍しく賛成できる意見ですね。確かに貴方がいたのでは片付く仕事も片付かなくなりますよ、陸さん」
「黙れ海軍。邪魔なのはお前だ」

ばったりと出くわした二人に、あからさまに火花が散る。
紀元節の祝いという必ず達成しなければならない目的があるために、それ以上の余計ないさかいは辛うじて避けられているのが唯一よい部分だろう。
一触即発の険悪な空気が、唐突に現れた何かに破られた。

「むぅ。ぬしらは相変わらず仲良くは出来ぬのか」

ふわりと長い黒髪と着物を揺らし、にこやかにぎゅうと二人を両腕に抱きしめた者。

「日桜様……!」
「今日はぬしらの定めた我の誕生日ぞ、もう少し楽しくしてもらいたいものよ」

くすくすと笑うこのフレンドリーな者こそ、この神社の祭神で、そして国家の神である日桜。
わざわざ対立関係に等しい長門と関東軍を当番として呼び付け、この限りなく微妙な空気を作り上げた張本人である。
その振る舞いはおおよそ威厳に欠けるが、祟り神でもあるこの神の力は侮れるものではない。
機嫌を損ねればどうなるかわからないのだ。

「我の望みはいつ叶うかの」
「そう申されましても……」

となれば「仲良く」しなければならないが、普段散々対立し、いがみ合っている二人だ。
演技したとしてもあまりにぎこちなく、不自然になることはわかりきっていた。
しかし彼らを従える神の願いである。出来る限りは答えなければならない。
どうしようか逡巡としつつ、二人はちらと目で会話する。

「よいか、ぬしらは些か対立しすぎぞ。同じ我が国を守る者同士仲良くせい。まあ、我もなゐにはどうしてか避けられておるから、完璧ではないがの。せめて明宵のようになるのが理想じゃが」

ぎゅうと二人を抱きしめたまま、日桜は真面目に、かつ勝手なことを言う。
そんなことを言われても二人にはどうしようもない。
確かに数千年に渡り限りなく対立に近い微妙極まりない関係にある日桜神と名居神に比べれば、近年発生した海軍と陸軍の対立など取るに足らない子供の喧嘩に過ぎないだろう。
とはいえ、そんな神と比較されることそのものがとんちんかんだ。

「そのくらいにしておいてやれぃ、長門も関東軍も、大分困っているさね」
 
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