彼方戦記U


□年末年始2023
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「長門〜〜〜今年くらいはさぁ一緒に年越ししようぜ〜〜?」
「無理です」

だる絡みに対し一秒もせずに即答され、陸奥が大袈裟なくらいがっくりと項垂れる。

「今年も駄目かぁ」
「当たり前でしょう。毎年欠かせないものですから。貴方も来ますか?」
「いや、俺は神社の仕事は向いてないからね。酒匂つれて初詣に行くよ」

いつものごとくね、と笑った陸奥だったが。

「酒匂ですが、今年は手伝いに来るそうです」
「え」

愕然とする陸奥を無視して、長門は仕事に戻ろうとする。が。
膝から崩れ落ちていた陸奥が、へたりこみはなんだったのかという素早さで腕を掴んだために阻止された。

「ちょっと初耳なんだけど?」
「言ってませんから」
「言ってよそれくらいさぁ! 俺とお前の仲じゃん!!」

すがりつく姿は最早ダメ亭主のそれだが、長門がほだされることはなく、それどころか容赦ない手刀が陸奥の脳天に落とされて悶絶することになる。

「酒匂に迷惑はかけないでくださいね」
「もしかして俺のこと小学生か何かだと思ってる?」

返答はない。
話は終わったとばかりに陸奥を放置して長門は仕事に戻る。
めげずに話しかけた陸奥は、無事に書類整理の仕事を賜る結果となった。

「失礼しま、あれ? 陸奥さん……?」

やってきた酒匂が困惑した顔になる。
トホホ顔で20歳ほど老け込んだように見える陸奥は、おじいちゃん声を作って「よく来たねぇ、ほら、飴ちゃんをお食べ」などと言っているのでそれも仕方ない。
またそんな陸奥に対して書類回収ついでに拳骨を落とす長門もいる。もしも家族に例えようものなら家庭内暴力がさも当然のように横行するだいぶまずいご家庭だ。
実態としては、家庭内暴力の渦巻く家庭ではなく、この世界からすれば未来の話、少年漫画の世界に現れるダメ主人公とそれに鉄拳制裁を食らわすヒロインの関係が適切だ。

どちらにせよ、例えられれば陸奥はにこにことして長門は怪訝な顔をする。酒匂はどちらにしても終始困惑をする。

気づけばよくいる三人だが、酒匂に関しては所属も違う。親子程に歳も離れている。しかし暴力沙汰――長門が陸奥に対して鉄拳制裁をしているだけ――が生じやすい二隻の側に酒匂を置くだけでマイルドになるのだから、周りから見れば愉快で微笑ましくも見えるのだ。
当人たちは、いや、長門と酒匂は何を言っているんだとばかりに首を傾げるばかりだが、周囲に与える印象はコントロールするにも限界がある。マイナスの評価でないなら二人もまあいいかと気にしない。

ともあれ。酒匂は急におじいちゃん面をし始めた陸奥に困惑していた。鉄拳制裁を目の前でくわえられていたが、長門が気にしなくていいと伝えたのに加えてどうやら大したダメージではなさそうなので考えないことにする。
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