彼方戦記U
□年末年始2023
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「えっと、書類持ってきたのと、軽巡級の話と、あとそれから、今度の神社の……」
「そう、そうだよ酒匂。君、今年は神社でお仕事だって?」
食いぎみに尋ねる陸奥の頭がスパーンとハリセン……もとい、どうやら陸奥が書き損じたらしい書類で叩かれる。
「は、はいっ。いつも、お邪魔してばかりなので、力になれたらいいなって……」
「ほんとにいいこだなぁ、酒匂は」
しみじみと呟く陸奥の背後には無表情ながら怒りのオーラを隠さない長門がいる。最早ちぐはぐだ。いつものこと、でもあるのだが。
「陸奥さんは、一緒にやらないんですか?」
「んー? まあね。適材適所ってやつさ。俺はどうにもあの感じに馴染めなくてねぇ」
へらへらした様子ではあるが、さまざまな理由をオブラートに包んだ表現だと酒匂は理解している。
でなければ、常日頃からなんだかんだ長門を支える陸奥が、総旗艦の仕事であるらしい神社の仕事を完全放棄するはずがない。
陸奥は向いていないと言って、長門はそれにため息をつく。
そのやりとりで触れない部分を作っているような気さえしてくるが、酒匂もその疑問には蓋をする。
「え、と。そうしたら、陸奥さん、僕頑張るので応援に来てください」
代わりに咄嗟に酒匂の口から言葉が出る。
言わなければ来ないような気がしてしまったのだ。
きょとんとした陸奥は一拍置いて笑いだした。
「頼まれなくてもそうするさ。本当にいいこだね」
ぽむぽむと酒匂の頭を撫で、陸奥は楽しそうに言う。酒匂もへにゃりと笑って、本来の仕事である書類の提出と軽巡級の演習計画の進捗を話す。
いつもの時間、いつもの報告。
代わり映えのない日常だが、だからこそ安心する。
日常の中の雑談で、煤払い等の話が出ては師走を実感する。
実のところ普段から清掃を徹底しているために然程手間はかからない。
いつもよりさらに丁寧に行う心構えが大切で、強いて言うなら年に一度、半年に一度、月に一度、といった清掃箇所は全て確認・点検するためたしかに作業は多いのだが、少なくとも長門と酒匂はそれを苦としない。
陸奥は唯一、赤城や三隈、那珂のように一個一個は軽いとしても集まると面倒だとする立場を取るが、なんだかんだ細かい部分はきちんとしているので大した手間は必要ない。
それとこれは話が別だと主張するも現時点で長門に理解はされていない。
毎年年末に起きるコントのようなやりとりを、飽きずに繰り返している。