彼方戦記U


□日常と影
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夏のはじめ。

星祭り、夏季大演習、夏祭りと行事の続く夏に作られた、ちょっとした狭間。

「一週間か」

武蔵がうんと伸びをする。
纏まった休みはなんだかんだで珍しい。陸奥たちの尽力で連休は作られても、だ。
カレンダー上では夏季休暇となっていようが、実態は休みとは名ばかりの予定の数。任意という名の義務。別に不満はない。ないとはいえ、時には完全な休暇がほしいというのも大和たちの素直な感想だ。

一日だけではできないことも、夏休みといわれたらやろうかという気になれる。貴重だからこそ満喫できるのかもしれない。
滅多に得られず、きつい訓練の合間に思いを馳せる、そんな完全な休暇がやってくれば、やりたいことが押し寄せてきて、何をしようか迷うのもありがちだ。

「今度こそ新しい望遠鏡を……」
「俺もルアーを新調しないと……」
「今年はキャンプかい?」

何をするにもとりあえずは趣味の道具をという話にするりと滑り込んできた陸奥が、推測であり提案でもある発言をする。

「なるほど……ありかもしれないな」

本来ただの推測でしかないはずの発言が提案になるのは、こうして兄弟が納得してしまうからで、陸奥も半ば予想しつつもまたかといった顔をする。

「君らもっと遊びがあってもいいと思うよ? というか、これ仕事じゃないからね」
「ううむ。頭ではわかってはわかっているんですが……。やり方がどうにも」
「きちっと計画しなきゃって思うからさ。準備は大切だけど、時には勢いも大事なんだよ」

とはいえこの辺りは好みもあるけど。と、陸奥が笑うのに対し、やはり真面目な武蔵は考え込むような顔をした。

「こればっかりは慣れだね。まあ話を戻すけど、のんびり山で過ごすのも最高だよ。訓練じゃないキャンプってのは楽しいものさ」
「確かにそれはそうだな。せっかくだ、陸奥。長門も誘って行くことにしよう」

まあ、長門を誘うのは難しいだろうが。大和はそう言葉を付け加えようとして飲み込んだ。
言霊というものを長門に聞いたことがある。ならば言わない方がいいだろう。それならば、こないだろうという予測を口にするより、もしかしたら、来るかもしれないと期待を言葉にしたほうがよほどいい。

「よし、決まりだね。それじゃ俺は長門誘ってくる!」

おすすめの場所はあとで教えるよと付け加え、陸奥がるんるんで歩いていく。たぶんもう予行演習ではばっちり誘えているのだろう。叶うといいのだが。

それを見送り、兄弟はキャンプの計画を立て始めるのだった。
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