彼方戦記U


□あるいは二つの街に
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いくら日々訓練や仕事に追われがちとはいえ、それでも休日は確保される。否、だからこそ、確実に守られる。
自主的なものはさておいて、圧力による返上はありえない。それは陸も海も同じだが。

「んだとてめぇ」
「なんじゃやるか」

休日こそ白熱した、というよりも、ほぼ喧嘩というやりとりが飛び交うのは、日桜の中でも少ないとは言えずとも多くないが、日桜陸軍総軍級“東方”第一総軍と“西方”第二総軍にとってはこれこそがいつもの光景だ。
実際に言葉だけでなく手が出ることも少なくない。今日はまだ、そこまでは至っていないようだが。

「今日の議題は?」
「景勝地」

通り掛かったの華月派遣軍“栄”の問いに、やりとりの冒頭から現在までを眺めていた航空総軍“帥”が非常に手短で的確な回答をする。

「飽きないな」

もはや感心といった様子の栄が呟いた。

北は青森、南は鹿児島までを、鈴鹿山脈を起点に東西に分けて統べる彼らによる、それぞれの自慢をぶつけながら最終的には地元に還る東京弁と広島弁の殴りあい。相手を馬鹿にするのでなく、地元の素晴らしさをぶつけあう誉めあいの合戦。
関東平野と南九州を重点的に、司令部の置かれる東京と広島を中心に、支配地域のすべてを使って、観光地から名産品、伝統芸能、果ては変わり種まであらゆるすべてを使って行う自慢大会。

「確かに不二洞は秋芳洞に並ぶような鍾乳洞じゃけん誇る気持ちはわかるが」
「だろ? この紅葉の時期の常清滝も、袋田の滝に勝るとも劣らない名瀑と紅葉だったが」

言葉遣いこそ血気盛んな若者らしく荒いものだが、良さは決して否定しない。否定すれば自らの格が落ちるからだ。
同格なれど自分の地域が僅かでもより凄いのだと、そしてその僅かな差はそれでも大きいのだと。白熱した結果最終的に物理的な殴りあいになるのは、それもまた若さなのかもしれないが。

ともあれ、たいていの喧嘩を眺める帥は、結果として道案内を除いて全国津々浦々の観光案内が可能な領域に到達していた。
そう、言葉の荒さを除けばかなり有用な観光情報。足を伸ばそうと考えるなら、下手な案内書よりも東西に尋ねた方がよほど役に立つ。本来の業務とはまるで関係ないのだが、観光案内の仕事が本業かのごとき詳しさだ。何なら豆知識さえ付け足して、その土地へ行く楽しみを追加してくれる。
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