彼方戦記U


□のどかな夜に
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「こんな遅くまで起きてんのか?」

もう夜も深い中、睡眠の気配をまるで感じさせない部屋の主に問いかける。

「お前こそ何してたんだ」
「ランニング」

飽きないな、とわざとらしいため息混じりの声が聞こえて、三隈は思わず笑った。

「お互い様ってやつだな」
「異議はない」

それで、何しにきたと最上の言葉は続く。

「飯行かね?」
「帰れ」
「付き合い悪いぞ」

即座に断られ食い下がる。普段ならばそう気にもならないが、流石にこのところ、最上は机に向かいすぎているような気がする。

「時間がもったいないだろ」

予想通りの続き。今度は三隈が大袈裟なため息をついた。

「最後に飯食ったのは?」

沈黙。最上の悪い癖だ。特性にかまけて休息を怠る。
寝食を忘れるほど集中できるというのは、凄いとは思えどいいことではないとの認識だ。休息があってこそ、最高のパフォーマンスを発揮できると三隈は考えている。
いくら寝食なしで活動可能だとしても、だ。研究部のメンバーはそこをわかっていないやつが多い。

「じゃあ借りるぜ」

返事も待たず、遠慮なしに上がり込み、積まれた本や書類を器用にかわして台所へと向かう。出る時間が勿体ないという意見なら、この場で作ってしまえばいい。
備え付けの冷蔵庫を開ければ、先日三隈が押し込んだ食材が半分以上残ったままになっていた。
手付かずでないだけ安心したとため息を一つ。

「米くらい炊けよ」
「時間がないんだよ」

わかりきった回答を聞き流して、調理器具と材料を並べる。整備だけはきちんとされた調理台。おかげで作業は楽だ。

手慣れた様子で油をひき、スライスしたハムを焼く。頃合いをみてその上に卵を割り落とす。ジュウジュウ、パチパチと跳ねる音とともに漂うハムの焼ける匂いが、どうしようもなく食欲を掻き立てた。程よく火の通ったところで黄身が崩れないように皿に移し、塩と胡椒を振りかければ完成。なんのことはないハムエッグ。ちゃっかり二人前。鈴谷が野菜も食えと注意してきたのを思い出し、さっと洗ったレタスを添えたところで、これまた三隈が持ち込んで以来常備されたトースターが、タイミングよく二枚の焼き上がったことを告げた。
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