彼方戦記U
□静かとは反対
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「いやはや、遠路遥々よく来てくれたな」
素直な労いかはたまたそうでないのか、妙に判別しにくい口調。そんなアーク・ロイヤルが笑って艦隊を迎えた。
大西洋。本来であれば、普通、日桜海軍が駆ける海ではない。だが現在は、やはり基本的に太平洋を舞台とするものの、以前よりはこちらも近い海になっている。
今回、日桜海軍を呼び寄せたのはイギリシアだった。かつての同盟国だからか、数少ないまともな空母運用実績のある国同士だからか、時おりこうして声をかけてくる。
日桜としても、現在の同盟国であるバウテやアソランのいる欧州には用事がないわけでもない。仮に何かの関係性の変容があるとしても、所謂枢軸と連合の対立構造は事実上表面的なものとなった今、かつての縁が再び結ばれるならば、それはそれで悪いことではない。
定例行事と化した日桜海軍の英国訪問。
そしてその儀礼的な挨拶が、冒頭の一言だった。
「そうだな! 相変わらず、欧州は遠い!」
答えたのは足柄。がははと笑う餓えた狼に、アーク・ロイヤルが微妙な顔になる。
「さあ早速始めようじゃないか、この足柄、英巡洋艦との戦いを楽しみに来たぞ!」
「まあまあ、そう焦りなさんな、狼よ。ティータイムは疎かにするものじゃない」
ケタケタ笑うのは、エクセター。
しかし時計を見ても、アフタヌーンティーには大分はやい。
「一戦交えて汗を流してこそ、美味いものではないのか?」
似たような意見を持ち出したのは羽黒。
足柄が頷く向かいで、エクセターがやれやれとため息をついた。
「これだから戦馬鹿は困る」
「はは、覚悟しろ?」
あからさまに馬鹿にした口調に、一瞬にして殺気立った足柄と、なおも挑発的な視線を浮かべるエクセターとの間で、バチバチと火花が散る。
「おおかた、開始を調整して遅れた主力を上手い具合にぶつけようって魂胆だろう? 見え透いているぞ」
「フッドたちが見えんのはそれを待ってるんだと思っていたが。もしやアーク・ロイヤル一隻でうちに勝てるとでも思っているなら、エクセター、空母の存在から目をそらす貴様の分析能力には疑問符をつけなくてはならないな」
その一触即発の輪に羽黒も加わりいよいよ本格的に導火線に火がついた。
「もとより予定はしていたのだから、少し前倒してもいいんじゃないか」
アーク・ロイヤルが愉しげに紫煙を燻らせる。
「望みならば仕方ない、先に地獄を見せてやろう」