黎明
□朝焼けの少女
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橘豊日という王がいらっしゃいました。
温和で、少し身体の弱い大王です。
第一皇子は田目皇子(ためのみこ)。
嬪(大臣の娘から選ばれた后)、石寸名(いしきな)の御子でいらっしゃいます。
非常に優れ、また大王によく似ておられました。
大王の皇后は穴穂部間人皇女(あなほべのはしひとのひめこ)。
大王の腹違いの妹でいらっしゃいます。
石寸名より随分年長で、皇子がいないことで随分気に病んでおられました。
神懸かりの気があり、時折狂女の体になられるため鬼前太后とも呼ばれておりました。
田目皇子三歳の春。
漸く念願の御子をお宿しになった穴穂部間人皇女でございましたが、時折狂いを現し乱れておられました。
身重の女性は時折狂いの体を見せると言われてはおりますが、これ程までに激しいものでしょうか。
それは黎明の頃。
ひとりの御子がお生まれになる
それが、物語のはじまりでございます。
我が孕み子は神子ぞ
金色の僧侶、我が枕に立ちて告ぐ
彼の僧侶、西方が救世観音なり
民を救わんがため国を治めんとて我が胎に宿りて王とならん
我が孕み子こそ
救世主として大王とならねばならぬ
産声。
その御子の名は厩戸皇子
後世に聖徳と呼び称される彼の人は
女として、この世に生を受けたのでありました。