TOA

□take a crime on oneself1
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「ほら、ボタンはこうやって、とめるんだ。」

目の前にしゃがんだガイが、丁寧にゆっくりとボタンをとめてみせる。
俺はその動作を真似して、自分でも挑戦しようとするのだけれど、どうにもうまく行かない。
俺の服にあるような…大きいボタンなら、とめられるのに。
どうしてこう固っ苦しい畏まった服は、チマチマとしたボタンばかりなのだろう。
しばらく悪戦苦闘していると、再び過保護な使用人が手を出してくる。

「ルーク…そんなふうにしたら、服が駄目になるだろ?」

やんわりと、大きな手が俺の指を止める。
そういえば昔も、よくこんなふうに着替えを手伝ってもらっていた。
きっとガイも、同じことを考えてる。
懐かしむような、優しい視線がなんだか恥ずかしくて、逃げだしたい。
その気持ちを察してくれたのか、ガイは穏やかに笑って、タンスのほうへ足を向けた。
おそらく、この面倒くさいシャツの上に着る、さらに面倒くさい上着を取りに行ったのだろう。

自立しようと焦るほど、今まで俺がどれだけガイに依存していたのかを、思い知らされてしまう。
この服を着るときだって、当然のようにガイがついて来た。
そんなふうに、みんなが呆れてしまうくらい過保護にされないと、まともに服を着ることすらできない。
このままじゃ駄目だって、嫌だって思わなきゃいけないのに。
俺の世話をするときのガイの幸せそうな顔を見るのは、好きだと思ってしまう。

ボタンなんか…とめれなくていいもしれない。
俺も、ガイも、幸せになれるんだし。
むしろ、とめられないままのほうが、いいんじゃねえの?

ぼんやりと、とまらないボタンを眺めていると、後ろからガイの腕が伸びてくる。
俺の小さな身体は、少しの違和感もなく、あっさりとガイの腕に収まってしまった。

「こうしたほうが、わかりやすいか?」

ガイはそう言って、後ろから抱き寄せるような体勢でボタンをとめる。
ガイの手は、大きくて逞しい。
そのくせ、俺より器用だなんて…なんかずるい。
耳のすぐうしろに、くすぐるような笑いを含んだ息がかかる。

「ほら、簡単だろ?」

「…ったく、邪魔すんなよ。」

ガキ扱いされたのが悔しくて、離れようともがいた俺の手を、ガイの手が掴む。
力勝負じゃ、どうしたって俺はガイに勝てない。
そのまま、俺の手を使って上手にボタンをとめてみせた。

「ボタンを、こうして…穴にくぐらせる。」

驚くほど簡単にボタンをとめる俺の手が、自分の手じゃなくなくってしまったみたいで…不思議だ。
細かい音機関をいじる、ガイの手先を思い出す。
いつもは剣を握る手が、繊細な部品を組み立てる、奇妙な光景。

ガイに手を添えられながら、機械的に服のボタンをとめていく俺の手は、音機関のように操られてるみたいだった。



take a crime on oneself1

→take a crime on oneself2(※微裏注意)
***
『罪を着る』という意


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