絶望部屋 壱


□つながり
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「先生は携帯をお持ちではないんですか?」
「……どうしました藪から棒に」

連絡先を知りたいと思ったんです。
そう告げたら貴方は絶望して逃げるのですか?

「いえ、特に大した理由はありません」
「そうですか?」

ちょこん、と、音が似合いそうな仕草で首をかしげる。
あぁ本当に可愛いなぁ。

「携帯、持っていますよ。……正確には、持たされています」

先生は少し顔をしかめた。
だけどどこか嬉しそう。
滲み出てる喜びに、胸の奥がざわついた。

「お兄さん、ですか」
「えぇ。この間もいきなり家にやって来たんですよ。偶々携帯を不携帯にしていた時にかかってきた電話にでれなかっただけなのですが」

心配性なんですかね、と呟いているけど、常日頃から絶望して首吊っている先生のことだもの。
命先生は気が休まらなかっただろうなぁ。

「おかげで絶望できました、と伝えれば包帯で叩かれました」
「絶望したんですか」
「だって考えてもみてください。そっちの都合で勝手に電話かけてきたんですよ。それででなかったことを怒られても、私の都合というものがあるでしょう! 現代の携帯マナーに振り回されてる兄さんに絶望したっ!」

そう言いつつやっぱり嬉しそう。
命先生ずるいなぁ。
僕だって、先生を笑顔にしたい。

「僕にも教えてください」
「……何をですか」
「先生の、携帯の番号とメルアドを教えてください今すぐ」
「そ、そんな鬼気迫った表情はやめてくださいっ!」
「……」
「私の連絡先を知っても何もないでしょう。家では不携帯ですので返事は非常に遅くなるかいっそしないかもしれませんし、私からかけることはめったにありませんよ」
「かまいません」

それでもかまいません。
先生と、つながっていれるのならなんだって。

「僕が、貴方に連絡をとりたいんです」


そうして僕は先生の携帯番号とメアドを手に入れた。
読んだ本のことや日常の些細なこと。
毎日毎日飽きもせず一日一報していると、先生は返事をくれる。
それが嬉しくて、僕は今日もメールを飛ばす。
こんな小さなことで貴方とつながっていられるなら、携帯も悪くない。






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