絶望部屋 壱


□避暑
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世界的に流行しているウイルスが影響して、授業がフライングで開始された。
だけど午前中のみの短縮授業で、図書館も13時以降は閉館。
せめて17時まで開けてくれたら本が読めるのに。
暑さが凌げて一石二鳥だが、元々利用者が少ないことが災いしたらしい。
今年は全国的に冷夏だったらしいがそれでも残暑はまだまだ厳しい。

せっかく学校が始まった初日だから先生と話そうと思って、僕はずるずると学校に居着いてる。
かといって、図書館は閉館したし教室は騒々しい。
行き場を求めて彷徨っていると、廊下の外壁で木陰になってる場所を見つけた。
風が吹き抜けて、意外と居心地が良かったのでしばらく腰を据えることにした。

「あれ……久藤くん?」

本を読んでると頭上から声がふってきた。
見上げれば会いたかった人の顔。

「……よく見付けましたね」
「足が見えたもので。……暑くないのですか」
「意外と涼しいですよここ。先生もどうですか?」
「まだ仕事があるんです……」

あわよくば話をしたかったのだけどその期待は見事に裏切られた。
先生は先生で、休み明けなのに……なんてぼやいてる。
廊下の暗さで肌の白さが引き立つ。

「仕事、まだたくさんあるんですか?」

諦めきれずに食い下がる。
先生はちょっと面食らった顔をしたけど、すぐに表情を戻した。

「まだまだ、という訳ではありませんが……時間はかかりそうですねぇ」
「……そうですか」

残念だけど今日は諦めた方が良さそうだ。
また明日も会えるんだし。
そう合理化して、さよならを言おうと口を開いた。

「久藤くんこの後のご予定は?」
「……いえ。特に何も」
「それでしたら宿直室にいかがですか。ここより涼しいでしょうし、確かお茶と、あ、プリンがありますよ」

にっこりと。
微笑まれたから、一瞬幻聴かと思ったけどそうじゃないらしい。
なんたる幸運。

「お誘いですか」
「え?」
「いえ、なんでもないです。お邪魔します」
「どうぞどうぞ。私もすぐいきます」

にこにこ微笑む先生。
その余裕な表情が今は少し気に障る。
不埒な想像が頭をもたげて素早く周囲を見回す。

「ねぇ先生ちょっと」
「はいはいどうしました?」

笑みを絶やさず顔を近付けてくれる先生に、軽く触れるだけのキスをした。

「な……っ!!!?」

さっきまで白かった顔が瞬時に赤く染まった。

「くっ、久藤くん!!」
「大丈夫、誰もいません」
「そーいう問題じゃありませんっ!」

小さな声で絶叫された。
薔薇みたいに赤い顔で叫ばれても怖くないよ。
むしろ僕の嗜虐心を煽るだけ。

「続きは後でね」
「……っ!!」

耳元でそう囁けば、絶句した。
金魚みたいに口をパクパクさせてる先生をその場に残して宿直室へ向かう。
後から詰られるんだろうけど、それ以上の期待に胸踊らせた。

(先生、今夜は寝かせないからね)







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