絶望部屋 壱


□自覚させない
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放課後藤吉さんに言われた一言がやたら重く引きずっている。

「先生って、ツンデレですか?」



「無邪気に訊くんですよひどいと思いませんか!?」
「あー……」
「ちょっと、久藤くん! 目を逸らせないでください!」
「……大丈夫だよ先生」
「何が大丈夫なものですか! そして口だけで笑わない!」
「……」
「せめて何か言ってください!!」

フォローすら無しですか。
言いたいことがまとまらず、机に突っ伏す。
放課後の図書室で喚くのは非常識だとわかってはいるが、どうせ今日も人は来るまい。
利用者はいつも通り、久藤くんだけだ。
彼は私の話をにこやかに聴いてくれる。
その状況に甘えて今日も足を運んでいるわけだが……明らかに読書の邪魔をしている。
今更ながら自身が犯している失態に気付き、私は臥せた顔を上げられなくなった。

「……」

静寂の後、立ち上がる気配がした。
あぁ、もういいかげんにこの子も呆れたんだろうか。

「……よしよし」
「……っ!? く、久藤くんっ!?」
「先生、そのまま」

軽く涙ぐみかけているところに、後ろから抱き締められた。

「いきなり言われてびっくりしたんですか?」
優しい声色で尋ねられる。
落ち着いてくださいねー、と言いながら触れてくる彼に、別の意味で動揺する。
それでも触れていると安心するもので、多少私は落ち着き、冷静に考えられるようになった。

「いきなりというか……んー……」
「何?」
「……そう見られていることにびっくりしたんですかね」

加賀さんならともかく何故私が。
可愛らしい女性に対する評価ではないのですか。
ぐるぐるぐるぐる思考が回る。

「先生は可愛いよ」
「ひゃっ……!」
「とっても、可愛いんですよ」
「み、耳をなめないでくださ…っ!」

考えてたことが伝わったのかと思えるほどに絶妙なタイミング。

「藤吉さんの言うことは気にしない方が良いですよ」
「そうですか……?」
「えぇ。軽く流してください」

首元に軽くキスされる。
それだけでぞくぞくする私の体。
……末期症状かもしれない。




「藤吉さん」
「久藤くん? どうしたの?」
「先生がツンデレだと知っているのは僕だけで十分だから余計なこと言わないで」
「……え」
「それだけ。じゃあね」
「く、久藤くん! もうちょっと詳しく!! 久藤くーん!!!」



(先生の可愛さを知ってるのは僕だけだよ)
(先生にだって、教えてあげない)







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