手向けの花

□第二章:見ている先、立っている場所
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二ッ岩団三郎という男は、『人間』ではない。人間から『化け狸』と呼ばれる存在である。

だから、この世に生を受けた時、彼は『狸』として産まれてきたのである。

しかし、ただの『化け狸』ではない。彼は佐渡島で産まれ、生まれ持ったその強い『神通力』と『侠気』から、シマ中の狸達の親分を長年務め、時には金貸しとして自分のシマに住む困窮している人間を助け、時には姦計を講じ不倶戴天の間柄である妖狐達の佐渡島侵攻を喰い止めながら生き続けた。

遂には『二ッ岩大明神(ふたついわだいみょうじん)』という神号を手にし、島民たちの信仰を一身に受けてきた高尚な存在なのである。

人間社会での暮らしが長かった為に、人間の心情は理解している心算(つもり)だが、同時に狸であるが故に『解せぬ』と吐いて捨てた事もあった。


―――今まさに団三郎の心理を占めているのは、『解せぬ』という感情だった。
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