番外編
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〜拝啓、大切な人達へ〜
──それは王が王として自覚を持ち、また側近達も同様に歩きはじめた頃の事。
緋奈は一つ一つ、丁寧に包んだ白い花と甘いお菓子を手に、外へでた。……今日は、そうとても大切な日なのだ。
近頃は某お菓子企業が企んだせいで、『お菓子渡して告白をする日』となってしまったが、本来はやや違う。『古来より、大切な人に白い花を捧げ、大事な思いを告げる日』なのだそうだ。また、叶わないはずの想いが、ほんの少しだけ叶う日でもあるという─…
緋奈は真っ先に双子の姉であり、産みの母でもある薔薇姫の墓前へ向かった。だが、次は何処へ向かおうか?
「あっ父様にだね、うん」
一人納得して歩きだす。そしてそういえばと、ふと遠い記憶─原作─をふと思い返す。今日は主上から御手玉を頂いて家には暫く帰ってこないのだ、と。
栗花落さん──初代黒狼との、過去の記憶を慈しむ父の顔が思い浮かんだ。否、ひょっとしたら彼女を想って泣いているかもしれない。
……何はともあれ今日は大切な一日だ。知人も皆各々、大切な人へ贈り物やらしていて会えない可能性が高い。どうしようか……最悪この花を自室で飾るかと悩んでいれば、見知った人物を見つけた。
相手は緋奈を確認すれば、ぱっと嬉しそうにこちらに寄ってきた。……両手に見事に美しい飴細工の花を抱えて。
「お姉…様でいらっしゃいますか?!お久しぶりです!」
「世羅…久しぶり…ですね。見ないうちにまた一段と美しくなったみたいで驚きました」
「そっそんな…お姉様には叶いません…」
かあっと頬を染めるその姿はまさしく深窓の君。その愛らしい姿に和みつつ、一輪の飴細工の花をみた。
「絳攸に贈るのですね。頑張りなさい」
「ぁ……はい……!」
白い花を二輪贈る。世羅は喜んで受け取った。そして一礼して去って行った。
緋奈が微笑ましく眺めていれば、ドドドと擬音語がまさしくあう騒音をたてながらこちらにむかってくる気配がした。振り返ってみればそれはもう、よく知る人物で緋奈ははてと首を傾げる。
「そんなに息きらしてやってきて…一体全体どうしたわけ?姉様と燕青」
「どうしたじゃないわよ!あんな超絶美少女と知り合いだなんて!一体どういう関係なの?!」
羨ましいと声を抑える気皆無の姉に緋奈は苦笑した。知らないのも仕方ない…か。
「あの子の名前は紅 世羅様。おじ様の娘だよ。つまり私たちの可愛い可愛い従姉妹」
「おっおじ様…玖琅叔父様の!?」
「そうそう。ちなみにあの飴細工の花は絳攸への贈り物みたいだよ。なんかさ…もう…いいね、可愛いっ!みてて応援したくなる」
きゃっきゃと騒ぐ姉妹に燕青は緋奈が抱える花束に目線が向いてしまう。しかしそれには気づかないのか気付いたのか、緋奈はあっと口元を押さえた。
「…逢瀬を邪魔するのもやぼな話ってやつだね、私はさっさと退散するね」
えっという燕青は無視して緋奈は最後にと、二輪白い花をだした。
「姉様、いつもありがとう。燕青も、ねいつもありがとう。どうか遠い先でも幸せでありますようにと祈ってあげる。……私にはそれくらいしか出来ないから」
緋奈はくすりと微笑んだ。─…少しだけ悲しげに。
その悲しげな微笑みは何を意味するのか、聞くより先に緋奈は去って行った。
そんな燕青をちらりとみて、秀麗は首を捻った。
「ね、燕青の好みの女の人って…緋奈?」
「……へ?いきなりナニ」
「だって燕青、あなた自覚あるかは知らないけど、よく目で緋奈を追ってるわよ?」
片言になる燕青を余所に、秀麗は今まで無意識だったのとでもいいたげに、かつ微笑ましそうに燕青を見つめた。しかしすぐにため息をはく
「ごめんなさい燕青。逢瀬に誘っちゃって」
ピタッと燕青は足を止めた。くわえていたスルメの足がマヌケに飛び出している。そういえば緋奈も逢瀬がどうのって…オウ…セ?
「………はい?これ、逢瀬だったのか?!」
「でがけにいったじゃないの…。燕青がやれなきゃ今度の花街の内偵はセーガとなのよ…」
「まてまてまて!ヒゲ剃れってうるさかったのもそれか!?」
「じゃないと単なる用心棒にしかみえないじゃない」
「認める。マジで逢瀬だったんか?なんでスルメかじってるんだよ!?」
「駄々こねたからじゃないの!!」
兄弟どころか、これでは親子だ。混乱する燕青に、秀麗はため息をついた。
「……まあ、いいわ。今日は一日、ぶらぶら歩いて、過ごしましょ。休日なんて、なかなかないし。……でもね、燕青、途中のお花屋さんで白い花を一輪選んで、私に贈ってね?」
秀麗はどこからか一輪の白い花をさしだしてにっこり笑った。
「何度も何度も私を助けてくれて、ありがとう、燕青。これからもよろしくね」
一拍おいて燕青は破顔すると、秀麗の腰を抱き上げて、ぐるぐる振り回した。
「よし、わかった。白い花な。それと、今日の夕飯も俺がつくったろーかな」
(緋奈にもとびきり旨い俺の飯でもつくったろーかな)
いきなり上機嫌になった燕青に戸惑いつつも、秀麗はくすりと笑った。