番外編

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───邵可邸に戻って、二輪白い花を置いて置き、朝廷に向かえば三輪は悠舜達に、また二輪は戸部の鳳珠たちに、と贈るうち、手持ちはどんどん軽くなっていく。

そういえば、と緋奈は進む足を止めた。此処最近、リオウが朝廷に来ない。無断欠勤というわけでもなく、使いのものが頻繁に大量の書類を持って行き来している。

まあ大方、栗花落の花の観察だろう。昔文面でのみ読んだ『栗花落』という、50年に1度のみ花を咲かす、過去渡りする不思議な花。前黒狼の栗花落さんの由来となった花。緋奈は少し花を観察できるリオウを羨ましく感じながら、リオウには明日にでも贈ろうかと微笑んだ。


──そんな残り一輪となったとき、以前よりマシになったものの、未だに目に隈を作って熱心に働く同期を見つけた。

その人物は──



「珀明っ」

「む…お前──緋奈か」

「荷物手伝うよ。てか、仕事手伝ったげる。せっかくの公休日だもの。代わりに…終わったら食事奢ってくれる?」


緋奈の申し出に珀明は目を輝かせた。蓮 緋奈──彼女は叔父である紅 黎深に負けず劣らずの腕を持つのだ。珀明は大きく頷く


「夕飯奢るのなんか朝飯前だ」


黎深にかわり、楊修が吏部を引き継いだ。まともに仕事をこなし、仕事ははかどる…しかし、定時には帰れず、公休日が公休日にならないのは現在も健在である。

珀明はこれで少しの間仕事が休めること、そして友と久しくゆったりできる事に、頬を緩めた。

――夕時、緋奈と珀明は繁華街に向けて歩いていた。あの後瞬く間に仕事を片付けて退出許可を得た珀明は、緋奈から日頃の感謝にと白い花を受け取ったのだ。行事ごとに興味関心を持っていなかった――というより、日々の忙しさで忘れていたた珀明。不意打ちのそんな贈り物に暫く驚いて見つめていた。そんな珀明が微かに頬が紅くなったのを緋奈は知る由もない。そして白い花の贈り物に内心喜びつつも『友に』という意味合いの贈り物にどころなく歯がゆさも感じていただなんて知る由もない。


「緋奈、さっきのお礼だ。僕もお前にこれを贈る」


なにかを見つけていきなり走り出したと思えば、珀明は息を切らせながら白い花――束を緋奈へ贈った。


「わー花束!ありがとう。大切に飾らせて貰うね」


はにかむその姿に珀明は息を詰まらせ、次いでそっぽを向いた。


「大したことはない。それよりこの店にでも入るぞ!」

「ええ。そうね」


微笑みつつもお店に入っていく二人。その姿は、はたから見たら恋人同士そのものだ。否、はたからみれば初々しい夫婦にも見えたかもしれない。珀明と緋奈はその時代で言ってしまえばお年頃も少し過ぎたいい年齢。しかも両者共に顔立ちも整っているため、よく目立っていた。

まわりで目撃していた人々は二人が中に入るまでにこやかに見送っていた。また、羨ましそうに見つめる者もいた。




―――――――
――――
――


あれから話は盛り上がり、酒も何杯か飲んだ。家族そろって酒の強い『紅』の性を持っていた緋奈は意識も正常だ。が、珀明はどうやらそんなに強いほうではなかったらしい。お酒に強い緋奈に対抗意識を持って飲みまくったため、珀明は完全に酔っ払いに出来上がっていた。

…緋奈は小さく苦笑しつつも呼んだ軒に珀明を乗せた。


「…珀明大丈夫?」

「僕は大丈夫だ」

「いや私こっちだし…」

「そんなことわかってる」


窓にって睨みつける珀明。緋奈は苦笑いしながら小さく指摘すれば、珀明は勢いよくこちらをみた。

そんな時、かさり、懐で音をたてたモノに、緋奈は食後に渡す予定だったものをまだ渡していなかったなと思いだした。懐からだし、それを珀明の目の前に差し出す。珀明は目前のそれを寄り目になりながら見つめた。


「……む、なんだこの黒いちんちくりんのかたまりは」

「ちんちくりんて……お菓子よ?知らない?今日は白い花を贈る日でもあるけど、大切な日にお菓子を贈る日でもあるの」


最近からだけどねとくすくす笑う緋奈に珀明は口に迷わずいれた。


「……甘い、それに口にしたこともない味だ」

「『チョコレート』ってゆうんだ。…あっちなみにこれはすごく貴重なもので、もう二度と手に入らないと思うから追加はなし、ね?」

「ちょ…ちょこれーと?」
「そう、チョコレート」


珀明は不思議そうに緋奈を眺めつつも美味かったとお礼を言った。──某仙人軽油の貴重なチョコレート。この国に原産となるものもなければ、作り方も知らない。そんな、本来なら二度と手に入らないもの。それなのにあの狸は数日前に僅かばかりにといきなり押し付けてきた。

…故意に自分に作れと無言で言われた感じだが緋奈は無視。そんな貴重な最後の一つを珀明に贈った。

勿論、緋奈が贈ったのは白い花のおまけでという理由のみで、大切な人達に贈っただけだ。他意は微塵もない。

そんな緋奈を余所に、未だにぼーっと酒の余韻に浸っているままの珀明は、緋奈と呼んだ。


「……ん?どうかしたの?」

「お前は……誰を好いている」


何故かお説教モードの時の様に据わった目で見てくる珀明。内容も内容なので、緋奈は戸惑いを隠せなかった。



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