番外編

□〜もしも黄鳳珠が積極的な人になったら〜
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〜もしも黄鳳珠が積極的な人になったら〜



それは紫劉輝が王として、やっと落ち着き、かつ女人制度でまともに政事に女性が僅かながらも参加人数が増えてきてからのことだ。


今でも住宅としてお世話になっている鳳珠と珍しくも明日休日被る。次いでらからと緋奈は今日の分を終わらせると戸部へ向かった。日も落ち、通常時間帯なら多くの官吏たちが行きかうこの廊下は今は誰も通らない。


しかし、他部署と違って戸部には未だ全員が返れずにいた。


「……お疲れ様です。鳳珠様、お手伝いしますね」

「まだ仕事中だから私の事は黄尚書と呼びなさい連御史」

「…私はもう終わってるんだからいいんですー」


そういって席についた。王が落ちついたと言っても相変わらず人不足であり、戸部にそんなに官吏が回される訳でも仕事が減る訳でもない。

故に緋奈は働き過ぎで過労死してもおかしくない戸部の人たちの事を考え、少しでも力になれれば、と仕事が終わっては手伝いに来ていた。

ちなみに来るたびに此処にずっといてくれればいいのに惜しいと言ってくれる。必要とされて嬉しくないはずがなく、緋奈は小さくはにかんだ。その仕草が戸部の癒しとなってることは緋奈はしらない。


――連 緋奈が官吏として入ってから早十数年。緋奈は入った頃と比較し、ますます美しくなっていた。体力が底なし沼で、残業しても笑顔が崩れない、変わらない。気づいたらお茶をだし、補充し、と細動く。そんな彼女に目を向け、少し溜息を吐いた。

――彼女は未だ誰とも入籍していない。人柄も良すぎるからお見合い状は連日山ほど黄邸に届けられているのだろうが。しかし、自覚のない彼女はそれすらも知らないのだろう…黄尚書の指示で黄邸で働く者に全て破棄させているのだから。


その後、黎深顔負けの速度で仕事は切りがついた。まあ切りがつただけでまだまだあるが、明日も働く戸部の方々の分は少しは軽減されたはずだ。緋奈は柚梨と一緒に説得し、鳳珠を帰宅させた。勿論書類を持って帰ろうとしていたので戻させた。にこにこ良い一日をと手を振る皆さんに別れをいって、二人はやっと軒に乗った。それと同時に息をついて仮面の紐を解いた。ほどけば相変わらずの美しすぎる顔をのぞかせた。


「…鳳珠様、もう少しご自分の体を労わってやって下さい。貴方が倒れては元も子もございません」

「すまない。…だが手伝ってくれるのだろう?」

「当たり前です。明日はゆっくり休んで下さいね?」

「ああ。…緋奈、お前も明日は休みと聞いたが予定があるのか?」

「はい。陛下と……姉様のご様子を伺いにと…」

「そうか…もうすぐなのか?」

「いえ、まだ二月はあるだろうと」

「そうか――では私も行く」

「はい」


そういって鳳珠は一人手を力一杯握りしてている彼女の手を解き、自分の手を乗せた。


「気持ちは分かるが…自分の手を傷つけるんじゃない。心配するだろう?私が」


そういって自然な動作で鳳珠の胸に抱き寄せられた。…子供が生まれるのは難しいと言われた秀麗は子を身ごもる事ができた。……だが、出産の際に極めて母子の生存率は低いのだという。……ただでさえ国を掲げる勢いで王との結婚を反対していたのだ、そんなことで連日文や直線面会を求める声が後を絶たないのだという。数年間、官吏として生き、彼女はこれだけの功績を勝ち取った。緋奈はそんな姉を誇らしく思いながらも姉様は馬鹿だと呟いた。












―――その翌日のこと、緋奈達は仕事を休み、後宮へと向かった。途中、案内すると十三姫も付き添ってくれた。


「お忙しい中、ありがとうございます」

「いえいえ、貴女、秀麗ちゃん…紅妃姫様の御兄弟でしょ?来ていただいて感謝しています。体調もあまり好調とはいえないし…鬱憤というか、のろけというか…とりあず聞いて、会ってあげて。私に話せなくても、貴女に話せることがあるだろうしね」

「――はい、そうですね」


此方ですといい、十三姫は入室するために一声かけた。すぐにどうぞと声がかかる。

「姉さま、お加減はどお?」

「緋奈、と黄尚書…わざわざお越しいただいてありがとうございます。あまり気分がすぐれないわ……近いからかしら」

「とりあえず、薬湯飲んで、自分の体を優先してね?姉さま一人の体じゃないんだから」

「別に、わかってるわよ」


他の人々にも言われたのだろう。秀麗は頬を膨らませる。年齢としては既に三十は超えているものの、その様子は少し幼く、懐かしく感じた。

緋奈はくすりと微笑み、小さな器を秀麗に見せた。中身は薄桃色の液体が入っていた。


「これはなあに?」


「これは桜の花びらを集めて煮詰めたもの。甘味…っていったところね。杏仁とかにつけると美味しくいただけるから食べてみてね」

「そうなの。さっそく十三姫にお願いして今日いただいてみるわね。ありがと」

「いえいえ」



ちなみに黄尚書からはお見舞いにと花束が贈られた。その後。長居しすぎると秀麗が気を使うので早めに後宮を出て行った。陛下に会う予定だったが、時間があわないのでなしになった。



秀麗に会いに出かけたものの。日が沈むにはまだまだ時間に余裕があるなと考えてみて、軒についた時、鳳珠は緋奈の頭を撫でた。見上げれば、仮面で表情は見えないが、微笑んでこちらを見ている気がした。


「今日は休日だ。少し町でも散策していくか」

「――はい」



秀麗に会いに行った緋奈を気遣ってか、鳳珠はそう提案した。緋奈は迷いなく頷いた。



黄邸では侍女として働き、比較的すぐに茶州に向かい、帰ってきたと思えば女官…と大忙しの人生を駆け抜けていた緋奈。そういえば、仕事や家事以外でこうやって出かけるのは最近はそんなになかったかもしれないと気がついた。


そしてそういえば…とひとつ閃いた緋奈は、いたずらを思いついた子供のように鳳珠の方に向き直った。


「鳳珠様っ!甘味屋に行っても良いですか?」

「かまわない。そういえば緋奈は甘いものが好きだったな。よく茶うけに菓子が添えてあって美味だった」

「ふふっではさっそく行きましょう!行きたいお店があるんです!」



そういって軒から降りて、二人で歩いていくことにした。鳳珠は微笑みながら後をついていくが、この後緋奈のおちゃめ(?)な悪戯に顔をこわばらせることになる。






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