Teaching

□4限目
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その日は休日で、大事な話があると珍しく真面目な声色のげす君に呼び出された先はこじんまりとした隠れ家のような喫茶店、はとの巣。どうやらマスターがげす君の親戚でよく来ているという。ドアに掛かっているのはcloseのプレート。マスターは私達に紅茶を振る舞うと買い出しに行くと言い裏口から出て行った。

「closeとは言え店を任せるなんてずいぶん信頼されてんのね。」
「親戚連中ん中じゃ1番仲いいんだぜ。歳離れてるけど。」

紅茶を一口。茶葉はセイロンだろうか。私の好きなミルクティーによく合う。

「こんないいとこあるならもっと早く教えてほしかったわ。」
「悪ィ悪ィ。でも俺達ってなんだかんだこうやって休日に会うの小学生以来じゃん?」
「そういえばそうだわ。一緒に帰る事はよくあるのにね。」

少しの沈黙。そして空気が変わった。

「んで本題だが、とりあえず最後まで話を聞いてくれ。最後まで、な。」
「?うん…。」

最後までと念を押すげす君に首を傾げながらも続きを促す。

「昨日、兄ちゃんとこの部署の人が家に来た。」
「!!」

せんせーに関わる事。すごく大事な話で、なぜここを貸し切ったのかも頷けた。

「兄ちゃんが殉職した、と。」
「!?」

その衝撃的な言葉に声が出ない。なんで。どうして。せんせー。

「話によるととある事件で爆発に巻き込まれたらしい。爆発の威力が凄まじく遺体の回収はできなかった、と。」
「爆発事件…。」

爆発という言葉に過去を思い出し顔を歪める。信じられないそんな事。げす君の様子は…ん?あまりいつもと変わらない…?

「…話は最後まで、だったわね。続きがあるって事…?」
「あぁ。俺達家族は兄ちゃんが殉職したという話しか聞いていない。その爆発事件の詳細は聞いてもはぐらかされた。その人達の様子を見る限りウソを言ってる感じはしなかったけど…。」
「何かが引っかかったのね。」
「そう。この日本で爆発事件、なんて調べなくてもすぐわかったよ。」
「この前ニュースになってた奴?」
「あぁ。とある雑居ビルで起きたって奴な。1人亡くなったって報道だったけど、その被害者の名前とか詳しい情報はネットでいくら調べても出てこなかった。この意味わかるか?」
「…警察のお偉いさんがストップ掛けてるって事?」
「まぁそういう事。家族への説明は不十分すぎるし兄ちゃんが死んだって証拠もない。両親は訃報に悲しんでたけどその心境は半信半疑だ。」
「…うん。」
「そして今日、コレがポストに入っていた。」

そう言ってげす君が取り出したのは小さな紙の包み。1度中を確認したのかシールは取れかかっている。

「これはすみれちゃんにだ。」
「私に?げす君家のポストに入ってた物が?」
「開ければわかるさ。」

不思議に思いながら言われた通り開けるとコロンと出てきたのは赤い石のついたおしゃれなピンキーリング。決して安物ではなさそうだが、どうしてこれが私にだと?

「お母さんにじゃなくて?」
「入ってたのはそれだけじゃない。そん中よく見てみ。」

ピンキーリングが入ってた袋を覗くと1枚紙が入っていた。それを取り出すとそこには走り書きで一言、

−俺の生徒に贈る

とだけ書いてあった。

「誰が誰に宛てた物かなんて考えなくてもわかる。」

ケラケラ笑うげす君に対し目の前が歪んでいく私。それをぐっと堪えげす君に問う。

「それで?結局げす君はどう結論を出したの?」
「説明しに来た人達は真相を知らない。その真相を知ってるのはおそらく上層部のごく一部。そしてその真相ってのは…兄ちゃんが生きてるって事だ。」

何より俺のカンが兄ちゃんは生きてるって言ってる、とドヤ顔するげす君に、いつもならムカついて一発かます所だが今日程頼りになる事はない。

「相手が極悪犯罪組織っつーんなら死んだ事にしといた方が都合がいいし、身を守る為には仕方ない事だったんじゃないかなーと。」
「げす君の言う事はぜったーい、だもんね。私だってせんせーが生きてるって信じてる。あの人は優しいから…私を置いて逝くなんてしない。」
「ンマー優しいのはすみれちゃんにだけだな。兄ちゃんあれでかなり独占欲強いからwwだから指輪なんて贈ってくんだよ。」
「みんなにも優しかったけど?」
「そりゃあ子供には優しくするだろ?ほらこの前話したじゃん。俺が駅で兄ちゃん見かけた時の話。」
「なんだっけ?せんせーの連れの男性の妹にベース教えてたって奴?」
「それそれ。会話は聞こえなかったけど楽しそうだった。んで実はこれ続きがあって、その後もう1人合流して妹ちゃんと別れた後の話なんだけど。帽子被ってても滲み出るイケメンオーラに当てられたそこそこ美人なパリピに逆ナンされててさwww」
「まじで。ってかなぜその話そん時しなかったのさ。」
「すみれちゃんが嫉妬した時気温2度くらい下がるから。その日寒かったから今度話そうと思った。」
「…後で殴らせろ。それで?」
「辛辣wwwwんで、妹ちゃんの兄ちゃんは無視を決め込むし、合流した褐色肌兄ちゃんはなるべく穏和に済まそうと胡散臭い笑顔で断ってたんだけど、ほら相手パリピじゃん?これがまたしつこい訳。」
「いろいろと突っ込みたいけど続きどうぞ。」
「そしたら兄ちゃんが、」

「俺達は忙しい。他を当たれ。」

「って冷気でも出してんじゃね?って塩対応!にこりともせず淡々と言ってさっさと2人引き連れて行ったよ。個人的にはぽかんってアホ面してたパリピがウケた。」
「…アンタ人の事辛辣とか言えないわよ。」
「あはははは!!!」

さっきまでのシリアスはすっかりと影を潜めいつもの私達のやり取りになる。

「まぁここまで兄ちゃんが本気だったのはさすがに俺の予想以上でびっくりしてる。って事でこれからもよろしくなー未来の義姉ちゃん!」
「だから話が飛躍しすぎなのよっ!」
「それで兄ちゃんどこ行ったって話だけど。さすがに今も警視庁にいるとは思わないから、警察庁に異動…いや海外か?」

とりあえず今後は少し様子見という事に落ち着き、この件については一旦終わり。家に帰ってからピンキーリングについていた赤い石を調べるとガーネットだとわかった。

「えーと意味は?」

・永遠の絆をもたらす
・障害のある恋を助ける
・長い片思いを実らせる
・遠距離恋愛のお守り
・友情をベースにした恋を成就させる
・相手の浮気を断つ
・恋愛関係を長続きさせる

この他にもいろいろ意味はあるようだが、想い人から贈られた物、やはり恋愛面を気にしてしまう。せんせーこの意味わかっててガーネットにしたんだろうか。意外とロマンティストだな、なんて考えながらそのピンキーリングを左手小指に嵌めた。

「ほーんと…障害だらけだ。」

ピッタリだし。いつ測ったのやら…せんせースマートだわ。

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