フェアリーテイル

□王子様はお姫様を探しました
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それから数日。子供になってから図書館に通い詰めて呪いについて打開策はないかと調べていたが、ついぞ何も収穫はなくとぼとぼと帰り道を歩いていた。

「ぶっ。」
「っと悪ぃな。大丈夫か?」

よく前を向いていなかったせいか曲がり角で誰かとぶつかってしまい、ぶつけた鼻を手でさすりながらこちらこそすみませんと謝る。

「怪我してねぇか?」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
「ん?アンタ……すみれ?」
「……もしかしてまっつん?うわああぁ久しぶり!全然変わってないわぁ。特にその天パ。」
「…の子供か?あいつにそういう奴ができるとは……ってちょっと待て。久しぶりってどういう事だ。」

久しぶりに旧友に会えた事で普通に失言していた私はやっちまったと視線を逸らす。まっつんこと松田陣平は、そんな私の頬を両手で掴みぎゅいんと無理矢理視線を合わせる。

「にわかに信じ難いが、アンタ…すみれ本人なんだよな。」
「…まっつんって呼んでたの私だけのはずだけど。」
「……マジか。お前何があったんだよ。」

まっつんとは幼稚園から中学まで同じだったいわば腐れ縁のような関係だ。別に近所に住んでた訳じゃないが、よくクラスが一緒になったので当時の男子の中では1番仲が良かったのではないだろうか。高校で別れてから疎遠になってしまったが、全然変わってないのですぐにわかった。その天パで。

場所を近くのカフェに移し事のあらましを話す。話を聞いたまっつんはどんなファンタジーだよと突っ込んだ。ほんとそれな。

「んで?その呪い解けそうなのか?」
「どうだろう。実はさ、好きな人と両想いだった事が発覚したんだけど。」
「そりゃよかったじゃん。とっととキスしてもらえよ。」
「それができたら苦労してないよ。だってその人が好きなのは本来の私だもん。この姿の事は言えないし。」
「あぁそういう事。まぁ困った事があったら言えよ。昔のよしみだ。」

その後は雑談として昔の思い出やお互いの近況について話した。

「え?まっつん爆発物処理班なの?」
「おう。」
「萩原研二って知ってる?」
「そりゃあな。まぁ親友って奴だ。」
「…まじかー。」
「知ってんのか?」
「いや、その……さっき言った好きな人。」
「…マジか。」
「マジだ。」

まさかの繋がりに思わず乾いた笑みが零れる。そういや萩原君、同じ部署の親友の松田は〜とか言ってたな。まっつんがあぁ通りでと何か納得したように頷く。

「萩原の奴、最近すこぶる機嫌が良くてよ。よく携帯…メールを気にしてたな。たまにニヤニヤしてなんかキモかった。」
「キモいとか言わないであげてよ。」
「それにこの間萩原が幼女連れてたってタレコミがあったからな。そっちの道に進まないように見張っとけって言われたばっかなんだよ。お前の事だろ?」
「…そうだと思うけど。ポアロに行ったの。毛利探偵事務所の下にある喫茶店なんだけど。」
「じゃあ間違いないな。そこの店員に聞いたんだよ。」

安室さんはまっつんとも知り合いだったのか。ってか安室さん、なんて事言ってんの。

そろそろ暗くなるからと店を出ると、何を思ったのかまっつんが私を抱き上げる。

「ちょっと何してんの。」
「何って抱っこ。」
「何してんの。」
「…そんな怖ぇ目で睨むなって。送ってやるってんだよ。萩原に会った時誘拐されかけてたんだろ?1人で帰らせんのもなんか心配だしな。」
「抱っこの必要性とは。」
「今のすみれの歩幅に合わせるのは疲れる。こっちの方が楽。」
「さいですか。」

家は?とりあえず大通りを出て…。あぁあそこら辺か。私の道案内を元にまっつんがさくさくと歩いて行く。

「この辺なんだぜ?萩原ん家。ほら、あそこのアパート。」
「そうなの?案外近かったんだ。」
「すみれん家はもう少し先なんだよな?最寄り駅が違うから会う機会がなかったんじゃねぇの?」
「あぁそうかも。」

なんて話しながらまっつんの天パを弄って怒られてると、後ろからガサッと物が落ちた音がした。私達が振り返るとそこには心なしか顔が青褪めた萩原君が呆然とこちらを見ていた。音の正体は萩原君がコンビニの袋を落とした音のようだ。袋からカップ麺が飛び出ている。

「よぉ萩原。」
「よ、よぉ松田。お前、すみれちゃんと知り合いだったのか?」
「まぁな。さっきデートしてきたとこだ。」
「ちょっとまっつん何言ってんの。」
「まっつん、だって…?しかもタメ口…。」

萩原君がなんかショックを受けている。まっつんはそれを見てニヤニヤしていた。デートなんて言ったのは萩原君をからかう為か。こやつ楽しんでおる。

「それでこの後は?」
「すみれを家まで送ってるとこなんだよ。」
「じゃあ俺が変わるから。松田ん家反対だろ。」
「え、そうなの?まっつんごめんね。」
「いーや?おもしれぇもん見れたし。じゃあなすみれ。いつでも連絡しろよ。」

やや不機嫌な萩原君に受け渡された私は、手をひらひらとさせて来た道を戻っていくまっつんを見送った。

「…えと、研二さん?」
「なーにすみれちゃん。」

むすっとして答える萩原君になんと言っていいか困っていると、溜め息を吐いた萩原君がごめんと謝る。

「松田にはタメ口愛称なのが気に入らなくて。」

なんだ、それ。そんな、まるで私とまっつんの仲に嫉妬したみたいな。

「すみれちゃんさえよければ、もう少し砕けて話してほしいんだけど。…駄目かな?」

眉をハの字にしてどこか寂しそうに問う萩原君にNOとも言えない。わかったと言うとぱぁっと明るくなって笑うもんだから、それを間近で見てしまった私は赤みを帯びた頬を隠す為萩原君の肩口に頭を押し付けた。

《萩原って二股してんの?》

その夜まっつんからきた電話に私は違う!…と思う、と曖昧な返事しか返せなかった。

《萩原わかりやすすぎだろ。見たか?あいつすっげぇ嫉妬丸出しだったじゃねぇか。あいつすみれが好きなんだろ?でも今のすみれにも少なからず好意あるぜ絶対。これを二股と言わずに何と言う。》
「どっちも私なんだけど。…まぁ他人から見たらそうだよね。嬉しいけど複雑すぎる。」
《ついにあいつもロリコンか。警察がそれじゃあ世も末だな。》
「おもしろがってない?」
《当然。これなら大人の自分から萩原略奪できんじゃねぇの?》
「略奪って。別に私のじゃないし。」
《ま、俺は高みの見物させてもらうわ。》
「…タンスの角に小指ぶつければいい。」

それ以降、萩原君とは前よりメールやチャットのやり取りが多くなり、一緒に出掛ける事も多くなった。萩原君は私をどんな目で見てるんだろう。青葉さんの話題も嬉しそうに話すから、別に本来の私がどうでもよくなった訳じゃないんだろうけど。

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