フェアリーテイル

□魔女は王子様とお姫様が惹かれ合っているのに
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翌日、借りたハンカチを洗濯しアイロンを掛けた。血は洗い流せたし見た目は綺麗だけど、果たしてこれを返してもいいのだろうか。萩原君の事だから気にしないかもしれないけど…私が気にする。
ネットで検索してみると同じ物を見つける事ができた。げっ…これのどこが安物なの。すごい高い訳じゃないけど私からしたら安物ではないぞこれ。私が気にしないようにする為に安物って言ったのか、それとも萩原君が稼いでて金銭感覚が違うのか…。
幸いな事に実店舗が割と近くにあった為、お店に電話して在庫確認してもらい今から向かう事にした。

「電話してきたのがこんなに可愛らしい女の子だったなんて。しっかりしてるのねぇ。プレゼントかな?」
「あ、はい…ちょっとお世話になった人に。あ、でも包まなくていいです!」
「あらどうして?」
「同じ物を借りて汚しちゃったんですけど、新品を買って渡したら素直に受け取ってもらえないかなぁ、なんて…。」
「気遣いもできるなんて、なんだか将来が楽しみな子ね。」

社畜になった女ですけどね…と苦笑しながらも目的の物はゲットできたので良しとする。

そして約束の日。あくまでハンカチは洗っただけという設定なので、他にお礼の品としてクッキーを用意した。お菓子作りが趣味で学生時代なんかはよく学校にもおやつとして持って行ったりしたのだが、社畜になってからはそんな暇なかったから久しぶりに作ったのだけど人にあげられるくらいには大丈夫だと思う。

「すみれちゃんごめん、待たせたね。こんにちは。」
「こんにちは。ハンカチありがとうございました。」
「どういたしまして。あれ、これ…。」
「…何か?」
「……もしかして、わざわざ新品買ってきてくれたの?」

まさかの即バレ。なんでわかったの。

「なんとなく?色落ちしてもう少し褪せてた気がするし、なんか綺麗だから。高かったでしょ?」
「研二さん安物って言ってましたよね。」
「それは、すみれちゃんが気にするかなぁって。」
「値段はあまり関係ないです。あ、それ返品不可でお願いします。」
「すみれちゃんって意外と強情?わかった。ありがたく貰っておくよ。大切に使うね。」
「それと、バレるつもりなかったから他にお礼としてクッキー焼いてきたんだけど…甘い物は大丈夫、ですか?」
「甘い物は好きだよ。じゃあ一緒食べようか。ジュース奢ってあげる。」

自販機で買ってもらったオレンジジュース片手に萩原君とベンチに座る。クッキーの包みを開け差し出すと萩原君は美味しそうと言い1つ手に取る。
あぁ緊張する。お礼とは言ったけど、これよく考えたら好きな人に手作りお菓子をプレゼントって事だからね。不味くはないはずだけど…。
そういえば1度だけ、萩原君が私のクッキー食べた事あったな。

「1個もーらい!」
「ちょっ…!」
「…これもしかして手作り?」
「…そうだけど。」
「へぇ。結構美味いじゃん。」

たったそれだけで当時の私は舞い上がってたもんだから若いってすごい。まぁ勇気がなくてバレンタインもあげた事ないんだけど。

「この味…。」

クッキーを一口かじった萩原君がじーっと手に持つクッキーを見る。もしかして口に合わなかったのかと萩原君に聞くと、あぁごめんそうじゃないんだと否定する。

「すごく美味しいよ。この前言った初恋の子いるでしょ?なんだかその子の作った物と同じ味がしてさ。」

な、なんだそれは。え、何?つまり萩原君は、たった1回食べただけのありふれたクッキーの味を覚えてるって事?

「が、学生時代の話なんでしょ?そんな昔の事、よく覚えてられますね…。」
「俺にとって特別だったからねぇ。さりげなく奪うの結構緊張したんだよ?」

ぶわっと頬が熱くなるのをまだ開けていないオレンジジュースで冷やす。青葉さんの話をしてる訳ですみれちゃんが赤面するのはおかしい。早く元に戻れ。

「ほらすみれちゃんも。」

そう言ってクッキーをあーんとしてくる萩原君に内心荒れに荒れまくる。口にちょんと当ててくるから仕方なく口を開け食べる。なんだか餌付けされる雛の気分。クッキーは私が作った物だけど。この図がね。え、これ萩原君ロリコンに見られてない?大丈夫?通報とかされない?…まぁ仲が良い兄妹にも見えなくはないから大丈夫か。

「俺さ、お巡りさんで爆弾解体を主な仕事にしてるんだけどね。まぁ他にも仕事はあるんだけど。」
「え、あぁそうなんですか?」

いきなり何を話すかと思えば。爆弾解体って事は爆発物処理班って事かな。そんな危険な部署にいるんだ…心配だな。

「だから今でこそ度胸はあるんだけど…昔は臆病でさ。」
「全然見えないけど。」
「そうなの!だーれも信じてくれないの!同じ部署の親友の松田は「エイプリルフールでも騙されねぇぞ。」なんて言うんだぜ?」

むすっと口を尖らせる萩原君はなんだか子供っぽくて可愛いと密かにくすりと笑う。

「臆病だから、フラれるのが嫌で告白できなかったんだよなぁ。」
「…。」

私もそうだった。勇気がないってのは建前で、当時の私はフラれて傷付くのが怖くて告白できなかった。それでずるずる引きずって、やっぱり告白してすっきりしとけばよかったなんて後悔するのだ。

「今からでも遅くないかな?」
「…え?」
「何年も会ってないし、向こうは俺の事なんて忘れてるかもしれないけど。やっぱり今でも好きだからさ。」
「忘れてないよ!」

とっさに叫んでしまった言葉にしまったと口を閉ざす。ぽかんと私を見る萩原君にえっと、と続きをなんとか付け足す。

「忘れてないよ、その青葉さんって人も。前向きに考えよう?」
「ありがとうすみれちゃん。よっし!そうと決まったらさっそく連絡先の入手からだな!」

…あれ?これってつまり近々萩原君から連絡来るって事?

「そうだ!すみれちゃんも俺と連絡先交換しよう?あ、でも携帯は持ってないかな?」

携帯はもちろん持っている。が、萩原君が私の連絡先を入手しようとしてるのならこれは教えられない。

「まだ持ってないの。」
「そっかぁ…それは残念だな。」

あまりにも萩原君が残念そうな顔をするし、私もすみれちゃんとしての交流を続けたいと思ったので携帯はないけど…と続ける。

「パソコンならあるよ。」
「家族で使ってるパソコンじゃないのか?ご両親の許可が必要なんじゃ?」
「あーえっと…PCメールは基本使ってないみたいだから大丈夫だよ。」
「そう?」

使ってないからPCメールのアドレスを知ってる人はいない。これなら教えられる。それにスマホでも確認できるよう設定すればいいし。

「じゃあここにメール送って。俺のアドレスだから。」

萩原君はそう言ってアドレスを書いたメモを私に渡す。そこにはアドレスの他に電話番号も書かれていた。

「一応ね。出先で困ったら遠慮なく電話して?」
「ありがとう。」

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