フェアリーテイル

□王子様とお姫様を見守る魔女がいました
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翌日。届いた衣服を身に付け外へと繰り出す。子供の足は不便だとしみじみ思った。足のコンパスが違うから大人の倍歩かないといけないし。重い荷物を持つよりは背負う方がいいとリュックにしてよかった。
低い目線で見るのもなんだか少し新鮮だと思いながら歩いていると、路肩に停まっていた車から人が降りてきて声を掛けられる。

「おじさんちょっと道に迷っちゃったんだ。ガソリンスタンドがどこにあるか知らないかい?」
「…それならすぐそこを右に曲がって、そしたら2個目の信号を…。」
「おじさん覚えられないよ。道案内してくれないかい?お礼にお菓子でもあげよう。」

なんか怪しすぎる。だいたい、私の前には声を掛けやすそうなおばさんが歩いてたはずだ。そっちに聞けばいいものをこんな幼女に聞くなんて。誘拐目的、か?

「…じゃあここで待ってて。近くに交番あるからお巡りさん呼んでくる。」
「君から聞きたいんだよ…!」

そう言っておじさんが手を伸ばしてくるので逃げようとするがすぐに捕まってしまう。

「いやっ…離して…!」
「おとなしく車に乗るんだ!」

強引に車に乗せられそうになり誰かいないのかと目線を彷徨わせると、少し離れた所を歩く男性を見つけ大声で叫ぶ。

「お兄さんっ助けて!!」

声が届いたのかその男性は私に気付くと慌てて走ってくる。おじさんは諦めたのか舌打ちをして私を突き飛ばし、車に乗り去っていった。

「大丈夫?!お嬢ちゃん!」
「お兄さんメモ持ってない?!」
「え?あるけど…。」
「早く出して!ナンバー忘れちゃう!」
「わかった!」

車のナンバーだけでもと走り去る車を脳に焼き付け、お兄さんにメモがないか聞く。メモを取り出し聞く体勢を取るお兄さんにナンバーを言っていく。また誘拐を企むかもしれない。他の子が犠牲になる前に捕まえてほしい所だ。

「お嬢ちゃんお手柄だな。これならすぐにでも見つかるだろうな。怪我はなかったかい?」
「えっと…膝がちょっと。」

突き飛ばされた際に膝から転んでしまった為そこから出血していた。どれどれと屈んで様子を見たお兄さんがそこの公園まで歩けるかい?と、そこでようやくまともに顔を合わせた私達はお互いに目を見開く。

「…青葉さん?」

えっと、あの…と口をもごもごしているとお兄さんはごめんごめんと謝る。

「お嬢ちゃんがあまりにも同級生の子にそっくりで。まさか子供?それはそれでショックなんだけど……お母さんの名前は?」

それに私は素直に答えるとお兄さんはほっとした様子を見せる。

「なんだ他人の空似か。青葉さんが結婚したなんて話は聞いてないから焦ったんだけど。っとごめんね。とりあえず怪我の手当てしなきゃな。」

何も言えぬままお兄さんに連れられ公園の水道で膝を洗う。そしてお兄さんはぽんぽんとティッシュで軽く拭くとハンカチを巻いてくれる。

「ハンカチ汚れてしまいます…。」
「いーのいーの。どうせ安物だし。」
「…ありがとう。」
「どういたしまして!」

親は?と聞かれ適当に仕事だと言い1人だという事を告げる。家まで送ろうかという言葉にぼけっとしてた私がとっさに頷くと溜め息を吐かれた。

「お嬢ちゃんはもう少し危機感持たなきゃ。」
「お兄さんは助けてくれたでしょ?」

それに知らない人じゃないから。

「警察だからね。当然だよ。誘拐事件は担当じゃないけど、ちゃんと報告しとくから安心してね。俺は萩原研二。よろしくねお嬢ちゃん。」

やっぱり萩原君だ。変わってない。じゃあ同級生の青葉さんはおそらく私の事で間違いないはず。覚えてくれてたんだ…嬉しい。

「私は……青葉すみれ、です。」

だから名乗るのは迷ったが、幼児化なんてファンタジーな事が現実に起きるなんて思う訳ないと本名を名乗る。

「…驚いた。顔もそっくりで同姓同名だなんて。そういや声も似てるかも…。」
「…さっき言ってた同級生の?」
「そう。その子俺の初恋でさぁ。結局告白できないままずるずる引きずってて、すっげぇ後悔してんの。」
「………………はい?」

なんか今とんでもない事言ったぞこの人。初恋?え、その青葉さんに?青葉さんはつまり私でしょ?ちょ、え?

「お嬢ちゃん…すみれちゃん見たらなんだか会いたくなっちゃった。連絡先誰か知ってるかな…。」

なんてこった。好きな人とはまさかの両片想いだったとは。もったいない。実にもったいない。ちょっとでも勇気を出して告白してたら…と思うと今すぐ頭抱えて転げ回りたい。
でもこれは逆にチャンスじゃ…とも思ったが、私が萩原君の知る青葉すみれだと言えないし、その萩原君は大人の私を好きでいるのなら今の私には振り向いてくれないという事に行き着き絶望的になる。まさか最強のライバルは私自身だなんて。

「さ、家まで送ってあげる。」

でも私は諦めるつもりはない。やっぱりこのままなんて嫌だし、せっかくこうして萩原君と再会できたんだもの。やれるだけやってみよう。

「あの、萩原く…萩原さん。」
「どうしたの?あ、萩原さんだなんて他人行儀はやめて研二君って呼んでいいよ?」
「……それって、好きな人に名前で呼ばれたかったからって訳じゃ…。」
「すみれちゃん鋭いなぁ!ほんとさ、すみれちゃんが青葉さんそっくりで…つい出来心と言いますか。ごめんなさい!これじゃあすみれちゃんを身代わりにしてるようなもんだ!今の話はなかった事に…!」
「……研二さん、でいい?」
「!!」
「さすがに年下だから…。」

身代わりも何も本人だしそこは気にしていない。ちょっとカマかけたつもりだったのにまさかの返しに頬が熱くなる。

「なんかすみれちゃんの方が大人だねぇ。」
「…そうかな。あ、ここです。送ってくれてありがとうございました。」
「どういたしまして。」
「ハンカチ洗って返します。」
「別にいいのに。」
「え、と…そうじゃなくて…。」
「?」

このまま別れたら駄目だ。また振り出しに戻ってしまう。かなり恥ずかしいが、次の約束を取り付ける為だ。もう後悔はしたくない。

「また会う、口実…。」
「!!」

そろっと萩原君を見上げると、萩原君は口に手を当て顔を逸らしている。夕日に照らされてるせいかその顔は赤く見えた。

「…あーやばい。」
「…やばい?」
「すみれちゃんは可愛いねって事!」
「か、かわ…!」

夕日に照らされた萩原君よりも真っ赤な顔になると、萩原君は頭を撫でてくるものだから恥ずかしくて思わず俯く。ぷしゅうって湯気でも出てそうだ。

「んーじゃあ3日後。さっきの公園で。どう?」
「…うん!」

萩原君と別れ部屋に入り、さて何の為に外出たんだっけと思い出した所で頭を抱えた。ご飯…今日もインスタントで乗り切ろう。

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