フェアリーテイル

□昔々ある所に
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むかーしむかし…って別に過去の話じゃないんだけど。ある所に社会の荒波に揉まれに揉まれ社畜と化したアラサー女がいました。残業は多いし最近はセクハラ紛いな事もされ、このままでは鬱とか過労自殺なんてなりかねないと今のブラックな会社を辞めました。社畜卒業やったね!

あー仕事したくねぇ。子供はいいわねぇ。長期休暇何日あんのよって話だわ。こちとら休日出勤サービス残業とか普通にあったんだぞ。もっかい子供からやり直したいかも。そしたらあんなブラックな所に入らないように頑張るのに。
とりあえず1ヶ月は自分の時間を優先する。就活はその後だ。やっと身軽になったのだ、ストレス発散を兼ねて思いっきり遊んでやろうと床に就いた。

「…なんで洗面台がこんなに高いの。」

朝、いつもより遅く起きて、今日は何しようかと考えながら洗面所に行くと目線は鏡ではなく蛇口。心なしか他の物もいつもより大きく見える。背が縮んだ?いや縮みすぎでしょ。あぁきっと疲れてるんだわ。今日は休む事に専念しよう。時間はたっぷりあるのだ。何かするのは明日から。
ベッドに戻り布団を頭から被ると、2度寝できるって素晴らしいと思いながら眠りに就いた。

「…やっぱり洗面台が高い。」

日がすっかり真上に昇った頃。久しぶりによく寝たと洗面所に行くもやはり目線はさっきと変わらない。どういう事だと仕方なく椅子を引っ張ってきて自分を鏡に写す。

「……夢ね。私どんだけ疲れ溜まってたんだろ。」

鏡に写ったのは子供。懐かしくも今とほとんど顔が変わらない小学生の私がそこにはいた。ピカピカのランドセルが似合いそうな7歳くらいだろうか。せっかく育てた胸も絶壁である。
起きたら子供になってたなんてんな事あるか。夢だ夢。もう1度寝よう。あのブラック企業とセクハラ部長の呪いかなんかだきっと。

3度目もやはり同じ結果であった。これは夢ではなく現実なんだと理解できた途端頭を抱えた。何がどうしてこうなった。何か変な物を食べた訳でもない。昨日はいつも通りの日常だったはずだ。強いて言えば仕事最後の日ってだけで。まさか本当にあのブラック企業とセクハラ部長の呪いか?なんて思いながらふらふらとリビングのソファーに座る。すると、そこで初めてテーブルに見覚えのない封筒が置かれている事に気付いた。

「何これ。郵便物、ではないし…。」

昨日は帰ってから郵便受けをチェックしたが何もなかったし、寝る前にテーブルの上は片付いてたから一体どこから湧いてきたのか。中には便箋が1枚。冒頭には青葉すみれ様へと書かれているから、間違いなく私に宛てられた手紙だ。

「何々?子供に戻った気分はどうでしょうか……は?!つまり何?私がこんな事になってんのはこの手紙書いた人の仕業な訳?!」

曰く、子供からやり直したいという私の願いを叶えたのだとか。余計なお世話だ。確かにそう思ったが、それなら時間も巻き戻してほしい。保護者のいない子供1人でどうしろと。貯金とか退職金があるからしばらくは大丈夫だが、いつまでもこの体のままじゃ生きていけない。

「元に戻る方法が1つだけあります…。なんだよかった。えっと?……それは愛する人からの口付けです。っざけんな!!」

思わず便箋をぐしゃっと握り潰して床に叩きつけた。どこのおとぎ話だよ!
続きにはこう書かれていた。両想いでなければいけない事。呪いの事を他人に話すのは大丈夫だが、話しを聞いた人が呪いを解く事はできないという事。おいこれ呪いなのかよ。私の為と言いつつ掛けたのが呪いかよ。やっぱふざけてる。

手紙を読み終えソファーに倒れ込む。これ無理ゲーじゃん。両想いじゃなければいけないって無理っしょ。今の体と同じ年齢の子なんて対象外だし、かといって大人が今の私を好きになるなんてまずないだろう。ロリコンはこっちから願い下げだ。元に戻ったら幻滅とかされるんでしょ。

「好きな人、か…。」

いない訳じゃない。彼とは高校の同級生で、3年生の時はクラスメイトだった。でもそんな彼とは成人式以来会ってない。と言っても成人式では挨拶くらいしかしてないからなぁ。青春時代の淡い恋心なんて思ってたのに、今でも彼氏を作ろうとしないのはずるずると引きずっているからだろうか。こんなんなら玉砕覚悟で告白してすっきりしとくんだった。

「警察になるって言ってたっけ。」

頭は悪くなかったと思うし運動神経もよかったはずだからおそらく夢は叶ってるだろう。警察って言ってもいろいろ所属があるからなぁ。どこに入ったんだろう。まぁ連絡先なんて知らないから聞きようがないのだけど。友達の友達とかなら知ってそうだが。それに向こうにとって私はただのクラスメイトだったし。今更連絡したってねぇ。

結局これじゃあいつまで経っても呪いなんか解けない。とりあえずその件は置いとく事にして、これからどうするか決めねばならない。幸いにも今は学生達は長期休暇真っ最中の為、平日の昼間ふらふらしてても怪しまれる事はない。本当にあれしか呪いを解く方法がないのか図書館に行って調べてみよう。こんな現象他にも例があってそれが文献に残ってればいいのだが。
やるだけやり尽くして、お金も底を尽きたら諦めて親に泣きつこう。ちゃんと説明すればきっと信じてくれる。迷惑は掛けたくないから最終手段であるが。
とりあえず服の調達だ。ネットで適当にポチポチして明日届くように注文する。本当便利な世の中になったものだな。届き次第空っぽの冷蔵庫の補充の為買い物に行こう。

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