クラッシャーズ

□コードネーム流川
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–景光side

俺の腕を枕にしてすやすやと眠るすみれ。前髪を払い頬を人差し指で撫でてるとすみれが擦り寄ってきた。今日も俺の恋人は可愛い。

「んぅ……みが……と…。」
「…何か言ってるな。」

口をもごもごと動かし何かを喋るすみれ。起きたのかと思いきやどうやら寝言のようで。一体どんな夢を見てるのか。気になって耳をすませてみる。

「きみが…すきだぁと……さけ、びーたい……。」

歌のようにメロディに乗せて寝言を言うすみれにくすりと笑いが零れる。ほんと可愛いな。

「…にゅふふ……すきだよぉ……。」

ふにゃりと笑ってさらに擦り寄るすみれ。こうかはばつぐんだ!俺も好きだよと言葉にしようとしたそれは、しかし次のすみれの言葉により音にはならなかった。

「…流川くーん……むにゃ…。」

流川って誰だ。

すみれの口から出た他の男の名前に呆然とし気付いたら朝だった。あまりにもショックを受けたのか現実逃避をしたかったのか、朝早くから登庁という事もあってすみれに聞けず仕舞いだった。

その日俺はすみれの身辺調査を行なった。ゼロにはまた何かあったのかと白けた目をされたがこれは大変重要な事である。しかしすみれの周りを当たっても該当者はいなかったし、最近すみれが見てるドラマやアニメにも流川という役者もキャラクターもいなかった。

「俺の力で探せなかった。あとはもうお前しか頼れねぇんだ!」
「いや本人に聞けばいいだろ。」

結局俺が頼ったのは弟の雅弥。そのチートじみた勘ならきっと見つけられる。
ガバッと下げた頭に降ってきたのは呆れた雅弥の溜め息。死活問題なんだよ頼むから力を貸してくれ。すみれが俺の元から離れたらこの先生きていけない。

「だいたいあのすみれが兄ちゃん以外を好きになる訳ないだろ。そんときゃこの世の終わりだな。それとも何。愛されてる自信ねぇの?」
「そりゃあるよ。…あるけどさ、あんな砂糖菓子みたいに甘い顔で他の男の名前呟いて好きだなんて言ったらよ…。そんで公安の力を持ってしても誰かわからねぇからボコりようもないし。」
「後半の言葉は聞かなかった事にするよ。…さっきも言ったけど直接聞きゃいいだろ。」
「怖くて聞けない。」
「変な所でヘタレ出すのやめてくんない?いつものヤンデレどうした。」

このヘタレポンコツとdisられ脆くなっていたハートは粉々になる。キノコでも生やしそうな空気を漂わせていると、雅弥がわかったわかったと半ば投げやりに協力してやるよと承諾してくれた。

「んで?なんか情報とかない訳?あった方が確実性増すけど。」
「名字だけはわかるんだ。流川って奴。」
「…流川?」
「あぁ。」
「……他に何か言ってなかった?」
「えっと…関係あるかはわからないが、その前にきみが好きだと叫びたいって言ってたな。どっちかというと歌ってたなんだが。」
「………はぁ〜。」

雅弥が頭を抱えてぶつぶつと何か呟いている。こいつらほんとめんどくせぇとか聞こえたけどちゃんと協力してくれんだよな?!

「兄ちゃん。」
「…おぅ。」
「それただの杞憂だ。」
「…え?」
「心配するだけ無駄!あー時間の無駄だった!」
「おいっどういう事だよ!流川って奴知ってんのか?!」
「まぁな!でも本当に心配するだけ無駄だから!あとはすみれに聞け!聞けば教えてくれっだろうから!」

とっとと帰れすみれがしょうが焼き作って待ってっぞ!と言って雅弥は俺を家から閉め出した。おいなんで夕飯知ってんだよ。

「おかえりー景光君。」
「…ただいま。」

玄関を開けるといつものように出迎えてくれるすみれ。いつものように笑えない俺はおそらく変な顔をしていたのだろう。すぐにすみれに気付かれる。

「どうしたの景光君。何かあった?」
「あー…うん、まぁそうだな。」
「私に言える事?仕事関係で言えないなら仕方ないけど、相談とか弱音とかいつでも聞くからね。」

眉をハの字にして心配そうに見つめるすみれに少しでも疑った俺を殴りたくなった。すみれはこんなにも想ってくれてるのに。大丈夫だ。雅弥も言ってたし。

「…なぁ、流川って誰だ。」
「……え?」
「昨日すみれが寝言で言ってたんだ。好きだよ流川君って。」
「ぅえ?!ま、マジか!寝言!?うわはずっ!あああああごめん!やらかしたぁ!!」

頭を抱えて唸るすみれに俺は待ちきれずもう1度誰なんだと聞く。ちらっと俺を見たすみれが怒らない?と聞く。すみれに対して怒りはしないだろうからとりあえず頷く。

「あ、あのね?言っとくけど別に浮気とかじゃないし他に好きな人がいる訳じゃないからね?!私が生涯を共にしたいのは景光君だけだから!」
「それを聞いて安心した。」
「…流川君ってのはまぁ…あれよ。景光君のコードネームなの。」
「コードネーム?」

曰く、表立って俺やゼロの名前を言えない時に使っていたあだ名のようで。前世で俺とその流川って奴の中の人が同じだったからそれにしたらしい。他の奴のも聞いたが、影でニュータイプやら歌うジーパンとか言われてたと思うとなんだからおかしくて思わず笑ってしまった。流川ってすげぇマシなんだな。

「だから、別に流川君が好きとかじゃなくて。いやアニメは見てたけど。声どストライク過ぎたけど。えっとつまり、私の中では流川君=景光君な訳で。…ごめんね。寝言とは言え不安にさせるような事言って。」

しゅんとするすみれにもういいと頭を撫でる。

「流川と俺は声同じなんだっけ?」
「え?…うん。」
「どストライクっつってたな。」
「…うん。」
「つまり、俺の声が好きなんだ?」
「……イケボめ。」
「そーかそーか。また1ついい事聞いた。……今日は言葉責めな。」
「え。」
「さーて飯飯!しょうが焼きなんだろ?」
「え、ちょ…いやなんで知ってんの?!」

耳を抑えて顔を真っ赤にしながら目を潤ませてもう許してって言うすみれはめちゃくちゃ可愛かったと言っておこう。


「げす君…本気の景光君やばい……あれただの耳レイプ…耳が妊娠する…。」
「知らねーよ。」

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