クラッシャーズ

□悪女上等。
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事故ってから2年程経った。あれ以降も私はいつも通り景光君に会う度にハグをしているが、やはり子供をあやすような感じで。あの時のは一体なんだったんだとげす君に相談してみたら、すみれの事すげぇって尊敬してるなんて答えにならない答えが返ってきた。

研二君や陣平君は今や爆発物処理班の期待のエースとして活躍している。そう、つまり。

「もうすぐだな。」
「うん…。」

げす君の親戚のおじさんがマスターをしている喫茶店"はとの巣"。通りから1、2本入った所に店を構えており、知る人ぞ知る隠れ家的喫茶店なのだ。げす君は将来ここを継いで自由気ままに生活してやんだと、初めて来た時に教えてくれた。過労死した人間から言わせれば、もっとゆとりのある生活がしたかったのだろう。ここは常連客もいい人達ばかりだし、コミュ力カンストしてるげす君にはこういう接客業は向いている。いいと思うよ、うん。

そんな隠れ家的喫茶店だからこそ、作戦会議(笑)をするにはもってこいなのだ。美味しいお茶やお菓子も楽しめるので一石二鳥である。たまにサービスもしてくれるからあっという間に私も常連客の仲間入りだ。

「とりあえず…どうしよっか?」
「んー…まずは研二兄がちゃんと防護服着てくれるように説得だな。それはすみれが適任だからよろしく。」
「騙すようで悪いけど研二君のシスコン利用させてもらうから大丈夫。絶対着せる。」
「…おー怖。ンマーそれはあくまで保険で、1番はそもそも爆弾を爆発させない事だな。」
「なんだっけ…なんかいろいろ勘違いがあったんだよね。」
「犯人の1人が事故ったのが原因だ。つまり、その犯人が事故らなきゃいい。勘違いの元となったマスコミはどうにもなんねーしな。それに犯人の早とちりが悪ィし。」
「それはいいとして、その犯人をどうやって探すのよ?」
「それは、ほら…俺がいんだろ?」
「…アンタの方が怖いっつの。」

それ最早超能力だから。勘ってレベル超えてるわ。本家超直感もびっくりだよ。

「公衆電話ってのはわかってんだ。それだけありゃ俺の超直感は働いてくれる。研二兄の命が掛かってんだ、絶対うまくやってみせるさ。」

当日どう動くか軽く話し合い、また後日打ち合わせする事にした。

「ねぇ、その事故った犯人が捕まるなら、もう1人の犯人もたぶん捕まるよね?陣平君の件ってなくなる?」
「…俺はあると思うなー。まったく別の事件でそうなるか…もしくは、今回の犯人の関係者が事件を起こすか。」
「原作と変わるかもって?」
「過去が変われば未来が変わるのは当然だろ?何があっても対処できるように用心しとくに越した事はない。念には念を入れてな。選択肢は多い方がいい。」

なるほどとげす君の言う事に納得する。何があるかわからないのが普通なのだ。何パターンものルートを作っておいた方がいいのは確かにその通りだ。

「ところで話は変わるけどさ。」
「何。」
「すみれって兄ちゃんの周りに関する情報どっから仕入れてくんの?陣平兄や航兄以外の情報源もあんだろ?兄ちゃんの事以外にも、噂好きなおばちゃんみたいにいろんな人の個人情報知ってっし、前から気になっててさー。」
「おばちゃんは余計よ。」

そしてげす君はまるで自分の武勇伝を語るかのように口を開く。

「兄ちゃんが高校ん時はどこの誰が兄ちゃんに告っただの、狙ってるだの仕入れてくるし?しかもちゃっかり牽制して諦めさせてるし。兄ちゃんにバレないようにさ。鮮やか過ぎて怖い通り越して尊敬物だね!初めてその場に居合わせた時俺は誓った…すみれには絶対逆らわないと!」
「げす君地獄巡りにでも行ってみる?」
「なんで?!」

それいつの話だっけ…。げす君が一緒にいた時だから…景光君が高3ん時かな。


その日珍しくドジ踏んだ私は足を捻ってしまい、げす君に支えられながらゆっくりと下校していた。その時同じく下校中の景光君とばったり会ったのだ。

「すみれどうしたんだ?」
「ちょっと足捻っちゃって…。」
「…雅弥、すみれのランドセル持ってくれるか?」
「ん?あぁなるほど…おっけ。すみれ貸して。」

兄弟だけで通じあってるのにちょっとむすっとしつつげす君にランドセルを渡すと、次の瞬間私は景光君に抱き上げられた。

「歩くと負担になるだろ?」
「景光君ってさ…私を甘やかすの上手だよね。」
「そうか?」

痛い物は痛いし、ありがたく腕に抱かれる事にする。最近身長伸びたし体重も増えたからちょっと申し訳ないのだが。
その時、先の道で誰かが物陰から覗いてるのが見えた。チラッとしか見えなかったが、景光君とこの制服でおとなしめのふわふわ系女子。うん、間違いない。景光君に告白しようか迷ってた同じ委員会で後輩の女子生徒だ。
げす君だけが私の目線の先に気付きあの人誰だと目で訴える。私は景光君の死角で指で景光君を差し軽くジェスチャーをすると、なんとなく伝わったようであぁと目を半目にした。

私は自己中心的で良い人ではないという自覚がある。むしろ自覚があるだけマシだと思ってる。景光君に関しては本当に譲る気は毛頭ないのだ。綺麗事を言ってる場合ではない。手段なんか選ばない。正々堂々なんて悠長な事は言ってられない。告白をさせるなんてお情けも掛けない。同じ土俵に上がらせる前に門前払いする。それでも諦めないってなら見直すけど、簡単に諦めるような女に景光君を渡す訳にはいかないのだ。

さて、今回はどうしようかと考え、この状況を使うかと私は甘えるように景光君の首に腕を回す。

「どうしたすみれ?」
「んーとねー…景光君に彼女がいなくてよかったなーって。だって、いたらこんな事許してくれないでしょ?」
「そんな事ないけどなぁ。すみれならいくらでも甘やかしてやるよ。まぁ彼女いないのはちょっと寂しいかな?」

なんかブーメラン返ってきた。景光君っょぃ…。

「景光君彼女欲しいの?私がいるのに?景光君の隣予約するって言ったの覚えてない?…景光君が他に彼女作ったら私寂しいなぁ。」
「ははっそういやそんな事言われたな!すみれは俺に彼女できると寂しいのか?」
「うん。だって私と前より会ってくれなくなるでしょ?」
「んーそっかぁ…じゃあ彼女はまだいいかな。」
「告白されても頷かない?」
「あぁ。それに同じ気持ちを返してやれないのに付き合うのは相手にも悪いしな。」
「よかった!」

会話をしてる間に女子生徒の横を通り過ぎる。女子生徒が景光君の目に入らないよう私に目線をやるようにしてたから、景光君はその存在に気付いていない。目を擦りながら去っていく女子生徒にちょーっと悪い気もしたけど、でもその程度の気持ちで私と争おうとするなんて覚悟が足りなさすぎよ。こちとら命掛けてんだから。


「あの時のすみれはどっちかって言うと悪女だったな。」
「悪女上等。生半可な気持ちで私から掻っ攫えると思ったら大間違いよ。それに、芽は早い内に摘み取らなきゃ、ね?」
「末恐ろしい女…。んで話戻すけど、結局すみれはその女子生徒の事どこで知ったの?」
「私のげぼ…知り合いからよ。」
「待って今下僕って…。」
「知り合い、よ?」
「…はい。」
「身内以外は広すぎて浅すぎる関係築いてんの。特におばちゃんはすごい。噂好きなおばちゃん伊達じゃねぇ。まぁ今回のは景光君の学校の人から聞いたんだけど。」
「人脈チートかよ…これもしかして弱みとか簡単に握られちゃいそうな感じ?」
「んー?どうかなー?」

にこにこと笑うとげす君もにこにこと(しかし引きつっている)笑い返す。

「すみれは絶対に敵に回しちゃいけない奴って事がよくわかったよ…。」
「そんなに怯えなくていいのにー。私がげす君の敵になる訳ないでしょ?」
「…はは…そーだな…うん。」

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