サンドリヨン

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それから1ヶ月。諸々の手続きやら家の片付け、陣平さんの引越しがようやく終わり、今日から本格的に夫婦としての生活が始まる。

「陣平さん、改めてよろしくお願いします。」
「俺の方こそよろしく。」

両親の寝室をそのまま私達の寝室にしたから寝る時は一緒。隣に誰かいるだけで安心して眠られる。悪夢で魘されてた時もあったけど今じゃまったくない。陣平さんパワーすごい。

翌朝。この1ヶ月で手慣れた朝食作りをして陣平さんを起こす。決して寝起きは悪くないそうだが、私が起こしてくれるからギリギリまで寝ようと甘えているらしい。なんだか可愛い。

「陣平さん起きて下さい。」
「ん…おはようすみれ。」
「おはようございます。」

起き抜けに軽いキスを交わす。始めは陣平さんが寝ぼけているのかと思っていたが、起こす度にするもんだから陣平さんの意思でやってるのだと気付いた。

「すみれ…。」
「ちょ、陣平さん?!」

しかし今日は違うらしい。陣平さんは私を抱き締め首筋に唇を這わす。これ完全に寝ぼけている。え、寝ぼけてるんだよね?
ちぅと首筋を吸われる。思わずぴくっと反応してしまう。

「あの…ん…陣平さん…起きて下さい…。」
「…ん?……あー悪ぃ。寝ぼけてた…。」
「もう、しっかりして下さい陣平さん。これからお仕事ですし私も学校です。ほら、遅刻しますよ。」
「なら休みの日ならいいのか?」
「……。」
「無言は肯定って事だぞ?今度おいしく頂くとするよ。」
「…お手柔らかにお願いします。」

ぱたぱたと寝室を出てキッチンへ行くとご飯をよそう。危なかった…陣平さんの寝起きの色気に持ってかれるとこだった。起きてくれなかったらあのままおとなしく食べられてたかも。

朝食を食べ終え身支度を済ませる。そして陣平さんと玄関に並んで靴を履く。通勤通学時間が被った時は陣平さんが途中まで送ってくれるのだ。

「忘れ物はねぇか?」
「大丈夫です。あ、ちょっと待って下さい。」

そう言って私は陣平さんのネクタイをきゅっと直す。

「よしっと。…奥さんっぽく見えましたか?」
「すみれは形から入るタイプか?」
「…悪いですか?」
「いや。ちょっとドキッとした。あんま可愛い事すんな。食べたくなる。」

少し頬を赤らめるとくすっと笑った陣平さんが私の唇を奪っていく。

「行くぞ。」
「はい。」

結婚生活は順調にいった。元々相性がいいのか喧嘩という喧嘩もした事がなく、陣平さんが疲れた時は私が癒してあげ、私が疲れた時は陣平さんが甘やかしてくれる。少なからず私も陣平さんの役に立っている事が嬉しかった。でもまだまだ私は陣平さんに貰ってばかりだからもっと頑張らないと。張り切る私に気付いて程々になと嗜める陣平さんに敵わないなぁと笑うと、すみれの心は俺のもんだからすぐわかるなんて恥ずかしい言葉が返ってきた。

とある日の事。

「三者面談をどうするか、ですか?」
「あぁ。一応保護者は松田さんって事になってるが…旦那さんだろ?青葉的にどうかなって。」

先生に呼ばれて職員室の端の方にある机に向かい合って座る。そして今度の三者面談をどうするかという話になった。

「できれば三者面談したいんだがどうしても駄目なら二者面談でもいい。どうだ?」
「私は構いませんけど…今日陣平さんに聞いてみます。」
「そうしてくれ。なるべく予定はそちらに合わせる。」
「ありがとうございます。」

夜、さっそくその話をすると陣平さんは二つ返事で引き受けた。

「学校でのすみれの話も聞きたいしな。つか、三者面談に親じゃなくて旦那が来るなんて前代未聞だな。」
「ふふっそうですね。」

三者面談は土曜の夕方にする事になった。

三者面談当日。陣平さんは意外と先生と話が合うのか生徒そっちのけで盛り上がっていた。歳が近いというのもあるのだろう。年上のお母様方を相手にしてきたから疲れたとかなんとか。それ聞かれたらやばいんじゃ…。

「青葉はよく頑張ってます。無理をしてるとかではなく、きちんと自分の限界を見極めています。きっと松田さんが言い聞かせているんですね。」
「こいつは言わなきゃどんどん突き進んでしまいますから。」
「…そんな事ないです。」
「図星刺されたような顔してるぞ青葉。」
「先生もそんな事言うんですかーもう。」

三者面談は何事も無く終わり教室から出て廊下を歩いている時だった。ちょっとした問題が起きたのは。

「あ、すみれちゃん!」
「もしかして三者面談?…って松田刑事じゃないですか!え、なんでいるの?」

蘭ちゃんと園子ちゃんと会ってしまった。なんでいるのはこっちのセリフ!指輪をしてた左手をとっさに後ろに隠す。休日だからと油断してた。

「2人はどうしてここに?」
「部活よ部活。私だって一応テニス部なんだから!」
「そういえばそうだったね…。」
「私が昨日教室に忘れ物しちゃったから取りに行こうとしてた所なの。園子とは丁度会ったから一緒に帰ろうと思って。」
「それよりアンタの事よ!松田刑事とはどういう関係?!」

これは…どうしたものかとチラッと陣平さんを見て助けを求める。この2人に真実を話してもいいけど、ここは学校の廊下。人気はないとは言えいつどこで誰が聞いてるかわからない。

「すみれの保護者が俺なんだよ。」
「そうだったんですか!でも初めて会ったのはこの前の事件の時ですよね?」
「そん時にすみれが俺の知り合いの娘だって知ったんだ。保護者不在だからとりあえず俺がなってんだ。」
「へぇ…。」

若干苦し紛れではあるが陣平さんの演技力はなかなかで2人は疑う事無くその話を信じた。保護者ってのは本当だからまぁ嘘ではないし。でもニヤニヤしてる園子ちゃんに嫌な予感しかない。これは月曜日になんか言われるな。例えば保護者という関係から恋へと発展していくとかそんな所。すでに恋は愛に発展してるんだけど。案の定月曜日に園子ちゃんにあれこれ言われそれを必死に交わすのが大変だったのは言うまでもない。

「さっきの話9割がた事実だぜ?」

帰宅中の車内で陣平さんが口を開く。

「さっきって…蘭ちゃん達に言った話ですか?」
「あぁ。嘘吐いたのは初対面があの事件だって事だけだ。」
「え?…それじゃあパパと知り合いって言うのは?」
「あれも嘘じゃねぇ。まぁ挨拶程度で名前は知らなかったがな。すみれの父親、あのバーに通ってただろ?」
「はい。」
「やっぱりな。」
「…二十歳になったらあのバーに一緒に行こうってパパと約束してたんです。」
「そうか…。じゃあその役目は俺がしてもいいか?」
「え?」
「今度はちゃんと二十歳になってからな。」
「…はい。ありがとうございます。」
「礼なんていらねぇよ。」

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