サンドリヨン

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来る金曜日。私の家に来た陣平さんを笑顔で迎える。私の頭をわしゃわしゃと撫でる陣平さんに、小動物か何かと勘違いしてんじゃないかと思いつつも嫌ではないからそのまま好きなようにさせる。

「んじゃあまずはすみれの両親に挨拶だな。こういうの大切だろ?」

仏壇に案内し陣平さんと一緒に手を合わせる。パパ、ママ。この人が私の旦那さんになる陣平さんだよ。かっこいいでしょ?

「始まりはあまり褒められたものではありません。でも、俺はすみれの事を本気で愛しています。必ず幸せにします。大事な娘さん、貰っていきます。」
「陣平さん…。」

頭を下げる陣平さんに倣い私も頭を下げる。すみれの事をよろしくお願いします。そう両親の声が聞こえた気がした。

「よし、次は俺んとこの親だな。」
「そういえば陣平さんのご両親はどちらに住んでいるんですか?ここから近いですかね。」
「車ですぐだ。」

そう言って連れてこられた場所は墓地だった。

「ここに眠ってるんだ。」

元々用意していた花やお供え物を置いて線香に火を付ける陣平さん。

「父親を早くに亡くして母親が女手一つで育ててくれた。その母親も過労が祟って数年前に病気で亡くした。母親の最期の言葉は、嫁と孫の顔が見たかった、だったかな…。」
「そうだったんですか…。」

一緒に手を合わせる。はじめまして、陣平さんのお父様とお母様。

「私はまだまだ未熟で陣平さんにたくさん迷惑掛けると思います。これからたくさん勉強して成長していきます。それでいつか自慢の妻だと言ってもらえるくらいになってみせます。どうか私達を、見守って下さい。」
「その心意気だけで充分自慢の妻なんだがな。」
「それじゃあ私が納得しません!」
「だろうな。頑張れよ。」
「はい!」

お墓参りの後陣平さんの家に行く。テーブルに広げられた婚姻届にごくりと喉が鳴る。

「俺んとこはもう書いてある。ほらボールペン。」
「ありがとうございます。うわぁ…なんかドキドキする。ひぇっ…字曲がった…。」
「なんだよひぇって!」
「き、聞かなかった事にして下さい!えっと…後は印鑑っと…。」

印鑑を押しふぅっと息を吐く。これを提出すれば晴れて私達は夫婦、か。

「すみれの担任は明日学校いるか?」
「部活の顧問してるからいると思いますけど。それがどうしたんですか?」
「学校に報告しない訳にはいかないだろ?俺の方はすでに報告済みだが。平日の放課後より休日の方が人もいないだろ。隠す訳じゃねぇがあまり知られたくもないだろ?」
「まぁただでさえ腫れ物扱いされてますからねぇ。波風は立てたくないですし。」
「時間作ってもらえるよう連絡しとけ。明日も休みもぎ取ってあるから何時でもいい。」
「わかりました。」

その後担任に連絡を取り時間を作ってもらった。大事な話があると言った時心配そうにしていたが、悪い事じゃないので安心して下さいと言っておいた。居心地悪くて転校するとでも思ったのかな。

「何時だって?」
「14時頃です。」
「わかった。仕事は休みだがちょっと野暮用があっから、お昼一緒食べてその後学校行くか。」
「はい。」
「それでもう1つ決めなきゃなんねぇんだが。」

陣平さんが私が担任に連絡している間に淹れていた2人分のコーヒーを持ってソファーに座る。わざわざ私の為に砂糖とミルクも用意してくれたみたいで顔が緩むのがわかる。

「ありがとうございます。決める事って?」
「住むとこだよ。ここじゃ狭ぇしな。そこでだ。」

陣平さんがコーヒーを一口啜り私を見る。

「すみれの家、持ち家だよな?」
「え?はい。」
「残したいと思うか?」
「…。」
「もし住むのが辛いって思うなら新しく探す。」
「いえ!辛いのは帰っても誰もいないからってだけで、あの家に住む事自体は辛いとは思ってません。」
「んじゃあ決まりだな。俺がそっちに行く。もちろん片付けは手伝うよ。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
「おぅ。」

その後さらに細かい事を話し合ってから市役所に行く為陣平さん家を出る。2人で婚姻届を出すと受付をしていた人が2度見したのに気付き苦笑が漏れる。警察官と女子高生だもんね。年齢だって一回りも違うし。

市役所を出ると無意識に張っていた力が抜け思わずため息が出る。

「んじゃあまぁこれで俺達は夫婦となった訳だ。他人じゃねぇから遠慮はするな。これからは俺がお前を守っていく。後、その敬語は少しずつでいいから直していけよ。」
「は、はい!善処します。」
「これからよろしくな、奥さん。」
「こちらこそよろしくお願いします、旦那さん。」

その日陣平さんは私の家に泊まった。これから陣平さんの住むアパートを引き払うまでの1ヶ月を掛けて、少しずつ家の片付けと引越し作業を進めていく事にした。

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