短編

□シャチになった恋人
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「確かにオレはシャチだけど...どっかで会ったか?」

『い、いえ...人違い、みたいです...すみませんでした......』



そう言って頭を下げると彼は気にすんなと言い人混みに紛れてやがて見えなくなった
彼の言う通り会ったことはない
少なくとも“この世界”では
昨日酒場で彼を見つけてしばらく観察してみたが雰囲気や仕草はやっぱり私の知っている彼で


―私を庇って死んだ“しゃち”に


私は元々この世界の人間ではないがこの世界のことはマンガを通して知っている
そのマンガ繋がりで私は“しゃち”と出会った
しゃちという名は本名ではない
彼はハートの海賊団が大好きで特にシャチがお気に入りだった
だから私は彼を“しゃち”と呼ぶことにしたのだ
一緒に過ごす内に私達は恋人同士となっていた

それはその矢先の出来事だった
横断歩道を渡っていた私達の元に居眠り運転をしたトラックが突っ込んできたのは
それにいち早く気付いたしゃちは私を突き飛ばした
そのおかげで私は助かったのだが、しゃちは...



『しゃち!しっかりして!!』

「ははっ...自分が、もう...ダメだってこと、くらい......わかる......」

『そんな...!イヤッ死なないで!しゃち!!』

「なァ...転生、とか...信じてっか...?」

『しゃち...?』

「もし、来世ってのが...ハァ......あったらよ......
 オレ、シャチになって...ローと、航海が...してェな......」

『......』

「そん時、は...お前も...一緒がいい、からよ......ハァハァ......
 オレのこと...探してくれ......それと、.........」

『...しゃち?ねぇ、ちょっと...目開けてよ...しゃち?
 ねぇしゃちってば!!い、いやああぁぁああああぁぁぁ!!!』



それと、の後に続く言葉を発する前に彼は息絶えてしまった
それから49日
どういった経緯かは思い出せないのだが私はいつの間にかこの島に来ていた
とりあえず情報をと思って見た新聞を読んでここがあのマンガの世界だと知った
トリップがあるなら転生だってあってもおかしくはない
私がこの世界に来たのは何か意味があるからだ
その思いで私は“シャチ”を探した
探したまではよかったのだが彼は私のことを知らないようであった
いや、覚えていないだけだと私は信じている



  
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