小説のお部屋

□one's favorite horse
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先程のベジータの表情を思い出し部屋の明かりも付けず、ブルマは力なくベットに身を横たわらせた。



あいつ…。
あんな顔も出来るんじゃない…。
いつもしかめっ面してるからそんな顔…しないのかと思ってた。

ハニーもハニーよ。何よ…。
ご主人を差し置いて…あたしの気になってる人、横取りしてくれちゃって・・・。


ごろんと寝返りをうつ。

自分の飼っている馬にまでこんな感情を抱くなんて…。病は相当、重いかもしれない…。


そう思っていたら、ひとりでに瞳から涙が溢れだした。




何よ…。何よ…!もうっ…。
人の気も知らないで…。
どんなに、いつもベジータのことを想っているか…。
どんなに心配してるか…知らないクセにっ・・・・。






感情の赴くまま、ぽろぽろと涙でシーツを濡らしていたら、何の前触れもなく自室のドアが開いた。


ブルマは誰とも話す気もなれず、今はひとりにしてほしかった。


「だれ…?かあさん…? 今ひとりにしてほしいんだけど・・・。」


人影がゆっくりベットサイドまで近寄って来る。


「・・・〜〜ひとりにしてって言って…。」

「…何を泣いてる。」


・・・こ、の声…。

ブルマは慌ててベットから起き上がる。


「…一体、何を泣いているんだ。」

声の主は重ねて聞いた。


「・・ベジー・・・タ・・・?  な、なんで…。馬に乗ってたんじゃ・・・・。」



その言葉にベジータは煩わしそうに口を開いた。


「…その馬が、お前がいなくなった途端、言うことを聞かなくなった。
俺を背から降ろし、早く行け。早く行け。ブルマの所に早く行け。とばかりに馬面を押し付けられた。」


「ど、どうして・・・。」

「お前の飼い馬だから、お前のことが解かるんじゃないのか?」


「・・・・・。」


「現にお前はこうして泣いている。俺様には関係ないと思うが、一応聞いてやる。 
何故、馬に乗らず、部屋に戻ってきた。
その格好は馬に乗るためのものじゃないのか。
何故、明かりも付けず泣いている。」



それは、質問をされている…というより納得のいく見解を聞かせろ…という半ば強制に近いような言い回しだったが、

ブルマは答えあぐねた。まさか本人を目の前にして、自分には見せない表情を自分の飼い馬に見せていたから、シットしてました…。とはとても言えない…。



「…そ、それは……」



ベジータは何かの限界が近いような気がしていた。

自分の馬に乗っている姿を見て何も言わず部屋に戻った女。

女がいなくなった途端、馬が自分を急き立てる…。

その女は自室に戻って、ひとり暗闇で泣いていた。




「…答えろ。」


ブルマにはベジータのその声音が聞いたことのない声色に聞こえた…。

苦しそうな…。それでいてどこか切ない声のような…。


その声色に、ブルマは無理に自分の口を開かせる。



「あの・・。だから…。ハニーゴールドに…馬に乗っていた・・・ベジータの顔が・・・見たことないくらい、穏やかで…。
・・・あた、あたしには・・・そんな顔…見せてくれな・・・・」


言っててブルマは、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。



そ、そんなことで…って言われるかも…。
確かに…そんなことで泣いてたんだけど・・・。




俯いてそれ以上どう答えようかと思案していると、顔の前に何か来た。

何かを疑問に思う前に、顎に手を掛けられゆっくり上を向けさせられる。

ベジータの顔が思ったより間近にあり、思わず息をのんだ。

顎に掛けられたベジータの手の親指が感触を確かめるようブルマの唇の上で数回、行き来する。

顎に手を掛けられたまま、ベジータの顔がどんどん迫って来る。




え・・・っ・・・ベジー・・・


「・・・・んっ・・・・」



呼吸が出来ず鼻にかかった自分の声が聞こえ、漸く、ブルマはベジータの唇に自身の唇が塞がれているのだと意識外で理解する。

精悍な唇と柔らかい唇が何度も何度も角度を変えて重なり合わさる。



「・・・ぅ・・・・ん・・・・・。」



予告なく、唇を合わせられたブルマは息が上手く吸えない…。

くる・・し・・・。



ブルマが何か言おうと口を開く、その口にブルマが言葉を発する前にベジータの舌が口の中に入って来た。

激しく貪り取られる。

こんなに激しい口づけはしたことがない―。



「ブルマ…。不可解な、行動をするな…。
俺の眼に入るな・・・。俺の視界に、いるな・・・。」


「・・・・はぁ・・・・ふ・・・・。」


唇を合わせたまま、唇の上で話され思わず大きく息を吸い込む…。

大きく息を吸い込んでいたところに、またベジータの舌がブルマの口に入ってきた。




好きな人からの激しいキスに戸惑いながら…
何とか応えようとしても、意識が霞む・・。



ベジータの言葉の意味が解からない…。

それでは、ベジータのこの行動は、なんなのだろう・・・。






ブルマは酸欠で意識を飛ばしかけながら、
今跳ね起きたばかりのベットに少し乱暴に押し倒された。




「・・・俺の…俺の視界から…消えるな…。
ブルマ・・・。」


苦々しいベジータの声が聞こえた瞬間・・・ブルマはその全身をベジータに預けた…。









「あ、あ・・・の・・。・・・ベジー・・・タ・・・・。あた…あた・し・・んぅ・・・こ、こ・・ゆこ…と・・・その…。した・・こと・・な・・い・・・・から・はぁふ・・い・・たく・・・しな・・・で・・・・・」



激しいキスを受けながら、ブルマは顔を真っ紅に染め、聞こえるか聞こえないかの声で、ベジータにやっとのこと、それだけ言った。







ベジータが口の端で少し笑った気がした。


























(2009.9.22)
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