小説のお部屋
□恋の行方
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女はリモコンを使い、俺の寝ているベットの背もたれをちょうどよく俺が寄り掛かれる角度にする。
そうして、隣に椅子を持ってくると、料理をスプーンにすくいふーふーと息を吹き掛け俺の口元に寄せる。
「はい。あーんして。」
一瞬思考が止まる。
なんだと?
こ、この俺様に口を開けて食い物が運ばれて来るのをただ待てというのかっ!
あまりのことに、ベットサイドにいる女を軽く睨む。
女は意味が分からないのか、
「どうしたの?
さあ、口を開けて?」
それでも口を開けようとしない俺に
「…こんな量じゃ足りない…よね…?
点滴はしてたけど、胃に何日も食べ物を入れてないから、いくらサイヤ人とはいえ、いきなり沢山の量は胃に入れない方が良いと思う…。」
足りなかったらもっと持ってくるからと付け足し、少し笑う。
この女に悪気はないのが分かった。
何日も眠り続けていたせいか言い返す気力もなく、今まで他人にそんなことをされたことのない俺は自分の顔が少し上気するのを感じながらも黙って口を開ける。
女はタイミング良く俺の口に食い物を運んでは、俺が咀嚼するのを待ち、色々選びながらまた口に運ぶ。
そうして女は俺が一通り食い終わるまで飽きもせず、口に運んだ。
「どお?美味しかった?足りた?」
俺は味を気にするような状況じゃなかったと言ってやりたかった。
だが、なんと答えたらいいか分からず黙りこむ。
俺の返答がないのも気にもせず女は続ける。
「それにしても、サイヤ人ねー。目が覚めて第一声がお腹すいたなんて。」
女は笑いながら、片手で顔を隠した。
ふと俺は自分の手に温かいものを感じた。
見ると、小さな小さな透明の液体が、手の甲の白い布に吸い込まれていく。
また、ひとつぽたりと吸い込まれる。
女が顔を隠しながら泣いていた…。
それは安堵の涙だったが、そんな感情はベジータには解らない。
また…。
せっかく泣き止んでいたのに、何故また泣いているんだ…?
「…迷惑か?」
自分でも何を言ってるんだろうと思う。だが口をついて出てしまった。
「え?」
「…迷惑だから、泣いているのか?」
「ち、ちがっ…。あの、そうじゃなくて…」
女が言いかけた時、部屋のドアが鳴った。
ヤムチャが遠慮がちにベジータの部屋のドアをノックした。
ヤムチャはブルマがベジータを付きっきりで看病しているのを知っていた。
自分のしてきたことの後ろめたさから何も言えずブルマがベジータを看病するのを見て見ないふりをしていたのだ。
だが、ベジータが目覚めたようなので、こうして来てしまった。
「…軟弱野郎か…。何か用か」
「…ヤムチャ…。」
ベジータとブルマの声が同時に発せられた
ヤムチャは思わず苦笑いする。
「あ、いや、ベジータが目覚めたみたいだから…オ、オレもちょっと来てみ…たんだ…。」
どこか歯切れ悪い言葉だが何をしに来たのかベジータとブルマには分からない。
本当は別な用件で来たのだが、今は言うべきではないのかも知れないとヤムチャは思った。
せっかくだし、少し世間話でもしようと気を取り直して、椅子をブルマの少し離れた所に寄せる。
ベジータが通常の状態であれば、聞けないような話を…と思い、たわいない話をしながらヤムチャはついつい男の好奇心には煽られ、ベジータの昔の女性関係についての話を聞いてしまっていた。
まさか、ベジータがそんな話なんぞ乗ってくるとは、期待などしていなかったが…。
「ところで……ベジータの初キスとか初体験とかっていつだった?」
この質問にブルマは露骨に嫌な顔をした。
ブルマは肌を露出した服を好んで着るが、反してそういう話題は好きじゃない。
女の子はえてして男のそういう話題に嫌悪感を抱くものなのに、コイツは長い時間近くにいた気になってそんなことも忘れてしまったらしい。
「キス…初体験…?なんだ、それは。」
「エ゛…。初体験だよ。初体験。女といつ関係を持ったかってこと」
「関係だと?戦闘か。」
「いや、そうじゃなくて、女を初めて抱いた時はいつかって話だよ。」
ブルマの苦虫を噛み潰したような顔をよそに、ヤムチャは話に夢中だった。