小説のお部屋
□one's favorite horse
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ウ、ウソ・・・!
いない…!?
まさか・・・どこか行っちゃった・・・!?
え、うそ・・・まさか・・・。
そう思った瞬間…後ろの馬場で馬の嘶く声が聞こえた・・・。
〜 one's favoraite horse 〜
カプセルコーポレーションの巨大な敷地の一本、道路を隔てた裏の向かいにカプセルコーポレーションの人間であれば自由に使ってよい運動施設がある。
そこには、競泳用のプールや、飛び込み台のあるプール、運動場、ジム、射的場から、剣道場、弓道場など様々な施設が設けられていた。夏休み等であれば、近くの小学生、中学生等にも開放されている。
ここの所、いつもの仕事の研究や、ベジータのための重力室の他に、ベジータから新たに戦闘服と言われ、休む暇がなかった…。
戦闘服の開発に着手したのはいいが、地球外の素地に業を煮やし、気分転換でもしようとブルマは久しぶりに愛馬にでも乗ろうと夕方、馬場にやってきたのだ。
…誰か乗ってるの?
父さん?いや、母さんかしら?
自分の父や母が馬に乗れることは知っている。
だが、両親が自分の愛馬にだけは乗らなかったような…。
愛馬のハニーゴールドはブルマにしか懐かない暴れ馬だ。
何年か前、まだ自分が学生の頃、家族3人で旅行をした時に3人で馬に乗った。街中ではない自然の中を自由に走らせてもらった。
馬の振動、自然の中を馬に揺られながら歩くその感動…木洩れびがさす、豊かな自然の香り…土の匂い…。馬の優しさ…。海辺では思う存分、馬を走らせてもらえた。
ブルマは都会が好きだったが、たまに味わう自然も大好きだった。
時間を決めていない、帰る時も決めていない自由な旅行。
ブルマは特に馬が気に入り、母がお買い物〜♪お買い物〜♪と父と連れだっていく間も、ひとり馬に乗りに行った。
基本的に馬は優しく穏やかな馬が多いが、何度も馬に乗ると馬にも性格があって、自分のことを‘人間’だと思っている馬や、女の子しか乗せない馬、気位の高い馬や、おどおどしている馬、食い意地がはっている馬など様々な性格の馬がいることを知った。
へえ〜。いろんな馬がいるのね。人間と同じ…。かわいいわ。
馬を所有している人達とも仲良く打ち解けて話せるようになった頃、ハニーゴールドと出逢った。
女の子なのに気性が荒くて、手に負えないからとサラブレット養成所から引き取られてきたのだ。
それはもう、暴れて暴れて…。人を乗せる鞍も着けさせないわ、嘶くわ…馬房に入れようとすると後ろ脚をけり上げるわ…。
確かに一筋縄ではいかないような雰囲気だった。
馬に乗らせてくれた人達はそんな性格の馬にも慣れているのか、馬場を解放して思いっきり走らせてあげていた。
ブルマはその馬を一目見た時から、その馬に目が釘付けになった。
な、んだか・・・生命力に溢れて…る…。
人が触ろうとさえしなければ、元気いっぱいに馬場を駆けまわってた。駆けることに喜びを感じるように、駆けることが大好きなように。
あのこ…。すごい。
疲れて帰って来て、少しは体力を消耗したかと思いきや…全然人間の言うことを聞かない。
こんな馬は初めてだな〜。どうすっか。というのんびりした口調の馬の所有者の人達の話し声をきいて、ブルマは即座に言っていた。
「お、おじさん。あの馬あたしにちょうだい。あたし、あのこ育ててみたい!」
ブルマは言って驚いた。まさか、自分が何かをすごく欲するなんて…。
確か自分はそんなに物に執着がなかったはず…。でも今、こんなにあの馬を欲してる。
「そらあ、構わんが…。馬はお金もかかるよ?広い場所も必要だし・・・。生き物だからね。」
「だ、だいじょうぶ…広い場所とかは…。家にもう使っていない馬場も馬房もあるし…。」
「・・・そうかい?じゃあ、ご両親と明日にでもいろいろなお話をしようか…。嬢ちゃんはまだ未成年だろ?」
「うん。うん。ありがと。おじさん! 明日両親連れて来る!」
リゾートホテルに戻って、その話を両親にした。
「あらあ〜。ブルマちゃんが何かを欲しいって私達に言うのなんて、何年ぶりかしら〜。」
ブリーフ夫人はのほほんと答える。
確かに…自分はドラゴンボールをひとりで探しに行くくらいの行動派だ。
「・・・ブルマ。馬を買うのも飼うのも構わんが…。相手は生き物だよ? 世話をしたりしなかったりするのは許されない。ちゃんと最期まで面倒みてあげるんだよ?機械とちがうからね。」
穏やかなブリーフ博士にしては、真面目な口調で言われた。
「はい。父さん。」
それにブルマはしっかりと答えた。
翌日、馬を譲り受けるために契約に3人で行き、その足で広い場所で大型の飛行艇をカプセルからだし、カプセルコーポレーションへの帰路についた。
ハニーゴールドは飛行艇に乗せるにも大の男3人掛かり、飛行艇内で暴れては困るからと脚輪をかせようと馬の所有者が言ってくれたが、ブルマは大丈夫だと思う。と麻酔も脚輪もさせなかった。
ブリーフ博士が操縦し、夫人が隣に座る。
ブルマはハニーゴールドの近くで、静かに話しかけていた。
「ねえ、あんたは人間がイヤなの…?」
「・・・コワイの・・・?」
「昔・・・イヤな目にあったとか?」
「イヤな目にあわされたとか…?」
「・・・もう大丈夫、だよ…。」
「あたしが、いるからね。」
馬に人間の言葉が通じないのも知っている。でも…馬は頭がいいと聞いた。人間の3歳児くらいの知能があると…。
それならば、心からの労わる言葉をかけると解かるのではないだろうか。
ブルマはそう思った。
だから、麻酔も足枷もつけなかった。
現にハニーゴールドは飛行艇に乗ってからは暴れもしない。
もしかしたら、自分がここで暴れれば自分の命が危ないと、本能的に察知していたからかもしれないが…。
それから、大変だった。
ずっと使用していなかった馬房を綺麗にしたり、乾草を買ってきたり、いろいろな馬具を揃えて…。
毎日、毎日馬の世話をして、馬場を走らせている間に乾草を取り換え、人の何倍も食べる馬の食事を一日何回も与え・・・。
馬が病気の時には馬小屋のハニーゴールドの馬房の隣の馬房に一緒に寝泊まりしたり・・・。
都会っ子のブルマが馬房の中で寝るなんて…それまでは考えらえないことだった。
自分でもそんなことが出来るなんて考えもつかなかった…。
ただ、心配で…。本当にそれだけだった。
そして欠かさなかったのは、毎日毎日話しかけていた。
ハニー?今日の機嫌はどう?
今日はこんなことがあったんだよ。
実験のレポートなんか天才のあたしにしたら楽勝よ。
他愛もない。何の変哲もないことだった。
そんなことを何日も何日も繰り返して繰り返して…。一体何日経ったのか…。
いつものようにブルマが馬房にくると、ブルマを見つけたハニーゴールドが前脚でカリカリと床を掻いた。
え・・・うそ・・・。あれは・・・確か…何かを欲しがって…餌を欲しがってる合図!!
試しに持ってきた林檎を手の平に乗せてみた。
ハニーゴールドは今まで自分の手から餌を食べたことはない。
そのハニーがブルマの手から林檎を食べた・・・。
うそお…!ハニーがあたしの手から…あたしの手から…りんごを・・・。
もっと欲しい…とその大きな顔をブルマの顔に摺り寄せて来る。
うそお。うそお・・・!!
「う、うれし〜〜〜〜っ!!」
思わず、ブルマは叫んでハニーゴールドの首に抱きついていた。
いままでは、人間に触らせるのをイヤがっていたのに…アッサリと触らせてくれた。
今なら、轡も着けさせてくれるかもしれない。
轡は騎乗する人間の意志を伝える大事な道具だ。
本当は鞍を先に着けるのだか、ブルマは轡を手に持ちハニーの顔の横に並び手で口を開けさせた。
これもちゃんと口を開いてくれた。
喜びで目に涙が滲む。
鞍を着け、前に立ち手綱を引いた。なんの抵抗もなく、後ろに付いてきてくれる。
馬場に出て、鐙に足を掛け、ブルマはハニーゴールドの背中に乗った。
乗った途端、ハニーゴールドが嬉しそうに駆け出す。
「ちょ、ちょっと待ってよ〜!ハニー。速いよ〜。」
涙で霞んだ目で懸命にハニーゴールドの背に乗った…。
昔を思い出しながら、馬場まで歩いた。
他の人の手から食べ物を食べるようになった今でも、その背にブルマ以外は乗せようとしない。
そんな愛馬に、騎乗しなくても週に3回は今でも様子を見に来ていた。
それは、ベジータやナメック星人達を家に招いた後も違わず・・・。
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