小説のお部屋
□恋の行方
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まただ…。この男の言葉に逆らえない…。
いつも自分の必要なことしか言わない,この男に何かしら言葉を言い返すが…、また逆らえない…。
〜 恋 の 行 方 〜
不遜だわ、横暴だわ、粗野で粗雑な言葉しか言わないソイツがうちの居候になった。
「魂とやらを地球に移動させてから云々」のくだりを聞いたとき
“へえ…。見かけによらず良いこと言うじゃない”
って思った。
“このヒト…頭いいな…”
とも…。
ただのお節介かそれともお人好しか…、気が付いたらあたしはウィンク付きでベジータに声をかけてた。
ナメック星では本当に、心の底からの恐怖を味わされたのに、面食らった顔に内心
“へぇ、こんな顔もするんだ”
と嬉しくなった。
それから、地球の環境を教えるのも、カプセルコーポでの生活の様式を教えるのも、簡単なレクチャーで済む。
宇宙の最先端の科学力で暮らしていたのに、あっさりとのみ込む物覚えに、ふと興味が沸く。
“このヒトって本当に頭いいんだわ…”
って感心するくらい早くに順応してくる。
だけど、その反面、無茶ばかりするから…
…目が離せなくなる。
科学者所以か、あたし自身がそう思うのか…。
目が離せなくなった…と自覚するのと、この男の不遜な態度にも関わらず、何かを言い返しつつ、文句を言いつつ、言うことを聞いてあげてしまっているのは時期が同じくらいだったと思う…。
話掛けられるのが嬉しい。
必要とされるのが嬉しい。
顔を見れるのが…嬉しい…。
そこまで、思って顔が火照るのがわかる。
“…やだ…。なんだか、あたし…”
そんな時だった。
その男が大怪我をしたのは…。
あたしはベジータが心配でずっと付き添った。
寝る間も惜しんで看病した。
このまま目覚めなかったら…と思うと怖くて怖くてしょうがなかった…。
泣きながら名前を呼んで、腕をさすった。
包帯だっていつも清潔なものと交換して…。
そんなあたしを何かを感じ取りながらヤムチャが見ているとは知らなかった…。
あたしにはそれくらいベジータしか見えてなかった。
ベジータはふと目を覚ました。
“…どこだ…ここは…。”
一瞬、自分の記憶をたどる。
“……地球か…。”
短く息を吐く。そうだ。重力室を破壊したのだ。
しばらく天井を睨んでいたが、ふと傍らに小さな気を感じた。
ブルマだった。
ブルマは床にぺたんと座りベジータのベットに腕と顔をのせ寝息をたていた。
“…なんだってここに地球の女が…”
思って、メディカルマシンのない科学力の低い地球では、原始的な治療方法しかないのだ…と思い至る。
この白い布も薬品臭さもそれの一貫だろう。
…それにしても、この顔のヤツレ…弱い気が眠っていても不安定に微弱になっている。
“………ずっと付き添っていたとでもいうのか…この俺に…?”
思い至ったことに思わず眉を潜める。
このままにしておくか…。とも思ったが少し考えて、白い布でグルグルの手をそっと伸ばした。
女の顔を微かにこすると女がみじろぐ。
「…ん……。え…あれっ、あたし…、あっ…ベジータは…」
目を開けている俺の顔を見て、女は大きく眼を見開き、そして大粒の涙をこぼした。
「べ、ベジータ……め、目ぇ覚めたの…?よ、よかっ……。」
言いながら声を殺して泣く。
俺は正直戸惑った。
何を泣く?
何故泣いている?
何がこの女をここまで悲しみにくれさせる?
どうしようもなくて、
どうにも出来なくて、
しょうがなく苦し紛れに適当な言葉を口にしてみる。
「………腹が…」
自分にしては歯切れの悪さを感じたが
女はぱっと顔を上げた。
「お腹?お腹痛いの?それともお腹すいたの?」
「……後者だ。」
聞くが早いか、女は立ち上がり涙を拭きつつ、少しだけ笑いながらちょっと待っててと言って部屋を出ていく。
思わず全身の力が抜ける。らしくないことに少し緊張していたらしい。
暫くして女が戻ってくると、両手の中のトレーに湯気の立つ料理が何種類か乗っていた。
女が泣いている訳が知りたくて、泣き止ませたくて誤魔化した言葉だったが、見たら急に腹も空腹だと感じる。
腕を動かそうとすると白い布に覆われているのが目に入る。
「待って…。」