小説のお部屋
□恋の行方
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ヤムチャは呆然と立ち働かない頭で、ベジータに向かって
「さっきは、悪かった…。少し度が過ぎた…。…追いかけてやってくれ…。ブルマを…。多分、ブルマはあんたに追い掛けて…」
と言い掛けて、ベジータがもうここに居ないことに気が付いた。
「…ハハ。アイツ、オレの謝罪聞いてたかな…?」
自嘲気味に笑い頬の傷をかきながら、
「お姫サマを追いかけるのは王子サマと相場が決まっているんだよな…。
もうお姫サマのナイトは必要ないみたいだ…。
本物の王子サマが現れたんだもんな…。」
ひとつ長い息をつく。
「王子サマにしっかり守ってもらえよ。お姫サマ。」
誰にともなくひとり呟き、
‘オレは今日実は修行に出ようと思うと言おうと思ったんだが…。同じことか。ここに帰って来ることがなくなっただけだ。’とは言わず心の中にしまい、苦笑いし、未練がないといえば嘘になるが、さあ、すぐにプーアルを連れてここを出よう。
‘やっぱり、女恐怖症を治したい。’なんて不純な動機だったからな。それもよくなかったな。
なんとここに来てブルマと同じことを思っていたとはヤムチャは知る由もない。
「…ハハ…。」
元彼女が自分に言った最後のセリフを口にする。
「今まで、ありがとう。ブルマ。」
‘ありがとう’か。良い言葉だな…。
‘ありがとう’と言ったら何故か少しだけ爽やかな心持ちになり、ヤムチャはプーアルとカプセルコーポレーションを後にした。
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カプセルコーポの広大な建物の中を走りながら、ブルマはベジータが追い掛けて来てくれたら…。
と思い、そんなことアルワケナイか。と思い直す。
大怪我してさっき目が覚めたばかりだし、
第一あの傲岸不遜な王子様が自分を追い掛けてくれる理由がない…。
もう走る速度を緩めてもいいかもしれない。
そう思った時、一陣の風が巻き起こり、目の前に腕を組んで憮然とした顔の男がふわりと降り立った…。
「……ベジータ…。」
…今まで、追い掛けて来て欲しいと願っていたけど諦めていた人物の登場に、俄に信じられずブルマはぽつりと呟いた…。
「……どうして、ここに…?」
「……」
言われてもベジータには答えようがない…。
ブルマが部屋を飛び出した瞬間、何故だか自分でもおかしなくらい追い掛けたい衝動に駆られたのだ。
そんなことはないと知りつつブルマは声を繋ぐ。
「……お、追い掛けてくれたの?」
「……」
そうだが、ベジータは何と答えればいいのか皆目検討もつかない。
何も答えないベジータにブルマは顔を歪ませ、ぎこちなく視線を反らすと、胸に巻いた包帯から血が染み出しているのが目に入った。
「べ、ベジータ、血が…。」
ブルマは思わず駆け寄りベジータの胸の傷の具合を確かめようとした。
ベジータはその手を掴む。
思わず、ブルマは顔をあげた。
真摯な眼とぶつかり、ブルマは自分の顔が紅くなってくるのが分る。
また、顔を反らしてしまった。
握られてる手が痛い…。
声をかけようとして、目の前に男の顔があることに、息が止まる。
ベジータの顔がゆっくり近づいてきた。
ブルマの顔の涙の跡に唇が落ちる。
あまりの驚きに、信じられない事実に言葉すら、出てこない…。
「………泣くな…。」
漸くベジータが言葉を発する。
言われてブルマは今までと違った意味の新しい涙が頬を伝うのが、わかった。
大きな蒼い眼から溢れた水滴に、思わずベジータはブルマの身体を抱き締めていた…。
「……泣くなと言ってる。」
どうしてだか、この女に泣かれると居たたまれない。
「ち、ちがうの…。これは今までのと違う意味の涙なの…。」
言っててまた新しい涙がこぼれおちる。
抱きしめられる身体は痛いけど、今はこうしていたい。
生きてる。
ベジータが生きてる。
あたしが生きてる。
そう感じれることが嬉しくて。
そっと腕をベジータの背中に回す。
瞬間、ベジータの身体が強張り、ブルマの顔を凝視した。
…あ…。いけなかった…?
と思ったその時、
ベジータの唇がゆっくり、ブルマの唇に重なった……。
衝撃がお互いの背筋を走り抜ける。
ただの軽いキスなのに目が眩む。
どれくらいそうしてただろう…。